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幸福のおわり
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部屋に付いていたバスタブが広かったし、入浴剤もお洒落なやつが用意されていたので、2人で入浴した。
浴室の照明が淡い紫で薄暗く、入浴剤は薄桃色で、溶けたお湯の感触はとろんとして薔薇の香りが広がる。
はとちゃんは俺の脚の間で体育座りして、何回も振り返りながらにこにこしている。足を伸ばしても大丈夫そうなのに、いつもながら慎ましい。背中の感触を胸や腹に感じ、腕を回して抱きしめると、はとちゃんは楽しそうに笑った。
「いっしょに、おふろに入れて、うれしい」
「俺も、凄く嬉しいよ。ずっと、胸に引っかかってたから……」
風呂場で虐待を受けていた人を、レイプした直後に風呂場に入れていたんだ。
発狂してもなんらおかしくなかった。
こうして湯船の中に一緒にいることが、とてつもない幸福で、許しのようだった。
自分を許せるようになるには、どうしたらいいのだろう?
俺たちは、お互いを許し合うことで、離れがたく思ってる。
共依存だ。
……それがどうした。
この2人だから生きていられる俺たちは、きっと最高で、最悪で、何よりも強い。
カウンターに貸し衣装をオーダーした。
はとちゃんにはブライダル風の白いドレスを。俺も何か着たらいいかな、とはとちゃんに聞くと、
「……赤いおようふくがいいです。しゅうとさんは、ぼくのヒーローだから」
と、普段は言わない注文をつけてくれた。
ヒーローショーを観に行った事もあったし、赤が好きだったのかな?
派手だから正直苦手だけど、普段の服装にも取り入れようか。
男性用で赤色の服装は、サンタかマリオかルパン三世と言われ、まだなんとなく着やすそうなルパンにした。
眩しい色味の青いシャツの上に更にビビッドな赤いジャケットを羽織り、黄色い少し幅広なネクタイを巻いた。
薄茶のズボンがスキニータイプで、確かに足が細っこいアニメだったな、と感心する。
オールバックのままだから髪型もそう離れてはいないはず、なのだが、顔付きが全然それらしくない。
顔で言ったら五エ門って感じの薄さだからな、俺。
壁に貼り付けられた全身鏡の前で首をかしげていると、着替えたはとちゃんが後ろから俺を抱きしめた。
「赤くて、おっきいせなか。とてもかっこいいです……」
はとちゃんは峰不二子みたいなセクシーな悪女じゃなく、なんだっけ、宮崎駿が監督してた……そうだカリオストロだ、あれのヒロインみたいな清楚な感じがする。白いドレスならなおさらだ。
ガチのウェディングドレスと比較すると作りが粗雑でミニスカートだが、裾がふわっと広がっていて、とても綺麗な形をしている。
やらしい事用らしく、過度に透けててだいぶエロい。下着は風呂上がりに着けなかったのか、網目の胸元で小さな桃色の乳首が見え隠れしている。
「これだと、ルパンが花嫁さんさらって来ましたって感じだね」
「ぼくのこと、ぬすむの? ぬすみはだめです。だから、しゅうとさんに、ぼくをあげます」
どーぞ、と両手を広げた。
相変わらず都合のいい発想の転換が凄い。盗まれる前に捧げてしまうのか。
可愛さに抱き寄せて口付けると、自分から舌を伸ばしてくる。閉じたまぶたがかすかに震え、緩んで柔らかい唇からはかすかにミントの香りがする。キスをしながら顔を傾けると、ほおもいつもと違う匂いだ。化粧品の違いだろうか。
頬の香り、なんかそんな歌詞の歌が流行ったな。俺たちも越えるか、夫婦。
分厚いベッドにはとちゃんの身体を横たえ、俺も隣に乗っかる。覆い被さって舌を絡め合うと、はとちゃんはネクタイを緩めてくれる。
じれったくてシャツのボタンを外し、赤いジャケットごと脱ぐと、はとちゃんもスカートをめくり上げて下半身を露わにする。
ローションとゴムを用意すると、はとちゃんはなんだか不思議そうな顔をした。
「おうちだとゴム使わない事結構あるけど、やっぱちゃんと……付けるべきなんだよな。はとちゃんが洗う手間と負担かけてる」
「いいのに」
「大切にさせて。大切な日だからさ」
そう言って、先に露わになって桜色に膨れているはとちゃんのそこにゴムを被せてあげた。しっとりとして柔らかな太ももや股関節のあたり、縫合痕を撫で回すと、なんだか愛おしさが募って、おへそに何度もキスをした。
うっすらと湿って柔らかな肉の感触が、唇から背中を抜けて腹を熱くたぎらせる。
ゴム越しにしごき上げると、時折広げた太ももがびくんとはね、俺の身体に脚が擦り寄ってはさみ込んでくる。
顔の位置を下げ、肉の間の割れ目を唇でかすかに押し拡げて舌を出し入れすると、さっきの入浴剤の匂いがする。たっぷりと唾液を絡めてくちゅくちゅと音を立てると、はとちゃんは恥ずかしそうな薄目で俺を見つめ、そぉっと眼鏡を外してくれた。
「もう大丈夫だよぉ、はやく……」
「早く、何?」
ローションを垂らして塗り込み、焦らすようにゴムの小袋を見せびらかすと、はとちゃんはそれを取ってポイっとあらぬ方向へ投げてしまった。
「もう、しゅうとさんは、ぼくのこと大切に、いっぱいしてくれたよ。ゆびわも、白いドレスも、いっぱい。だから、いいんだよ」
いいというのは、要らないということだろうか。出会ったばかりの頃から比べると、本当に貞操観念が崩壊しきっている。
こんなふうにしたのは俺だ。
可愛い可愛い化粧をされて、俺の前でされるがままにされるのを待ちわびて足を開いている姿が、愛おしくてたまらない。
「しょうがないなあ」
口で言うのとは裏腹に、身体は全力で肯定している。
硬い自分自身をとろけた穴にめり込ませ、のしかかって奥まで突っ込む。
「ん、う……」
かすかに顔をしかめ、耐えるようなうめきが漏れる。
入浴して身体が芯から温まっているからか、奥の方も熱を帯びている。挿れているだけでなんだか安心する。ずっとこうして繋がっていたい。
激しく突かずに揺さぶるように身体を押し付け、密着する。耳元にキスをして、何回も何回も好きだと囁くと、はとちゃんは腕を回して俺にしがみつく。
少し顔を上げて表情をうかがうと、化粧のおかげだけじゃなく、本当にきれいで、愛おしくて、このままずっと胸の中に置いておきたいと思った。
目が合うと、唇がキスをせがんだ。
吸い付いて舌を絡めると、脳から何から溶けてとろけて、はとちゃんと混ざり合ってしまうのではないかとすら思えた。
汗ばんだ身体中が心地いい。もう言葉にならないし思考もしようがない。ふかふかの布団を噛んで溢れる唾液も唸りも無理やり掻き消す。はとちゃんがうにゃうにゃした喘ぎを絶えず上げている。
大きく脈打って精液を放ち、視界が一瞬白む。身も心も満たされた感覚に、深く息をすると瞳から雫がこぼれそうになった。
幸せで泣けるってことが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。きっと生きる喜びってこういうことなんだろう、とはとちゃんの頭を撫でた。
「シャワー……浴びるのだるいな……」
「おうちではいろ。ぼくも、もこもこにねているので、うごくのが、なんか、もったいないです」
はとちゃんは真っ裸でうつ伏せになって布団に寝そべっている。脱げてくしゃりと丸まった貸衣装とコンドームが床に落ちている。
俺も虚脱感で隣に転がって、ぼやけた視界でラブホの残り時間を数えている。
「でっかいベッド置くスペース無いし、そもそも和室だもんな……。マットレスみたいなの用意するかな……? つか秋冬の寒さがどんくらいか分からないから、布団もそうだけど暖房も要るよな……」
はとちゃんとのこれからを考えるのはとても楽しくて、未知の東北の寒さもアトラクションみたいな気分だ。
むむのためにホットカーペットを入れてもいいかもな。猫はストーブとどっちが好きだろう? それともこたつで丸くなるのか……?
「こたつがあるよぉ、大丈夫だよ」
「居間はそれでいいとして、寝室に欲しいよね……それともずっとこうしてる?」
身体を抱き寄せると、かすかに冷えている。
「……こうしていられたら、いいよねえ」
うつ伏せで表情がうかがえなかったけれど、声色は幸せと希望に満ちたものだった。
と、俺は思った。
今にして思えば、こんな風に分かりやすく幸せの絶頂を作ったことが、その後の出来事をより辛いものにした、のかもしれない。
未来のことは分からない、過去は変えられない以上、たらればを言うのは意味がない。
ほんの少しの蜜月のひとときを過ごし、季節は秋になる。
出逢って一年が過ぎた、10月。
仙台の街路樹が葉を赤や黄色に染め、日が暮れるのがずいぶんと早まり、窓の外は真っ暗だ。カーテンを閉める。
俺たちは、東京へと走る夜行バスに乗っていた。
隣の席の背もたれを静かに倒し、膝掛けを腹の上まで引き上げたが、はとちゃんはぼんやりと瞳を開けたまま、黙りこくっている。
睡眠薬は飲んでいるが、どうにも不安なのだろう。あるいは時折揺れるバスが気になって眠れないのだろうか?
周りを見渡し、座席間の通路を移動する客がいないのを確認し、手を握る。握り続ける。
はとちゃんのもう一方の手は、花束を大事に抱えたまま、時々包みのビニールをくしゃっと小さく鳴かせる。
数種類の花が咲く中、はとちゃんがかたくなに選んだ菊の花が妙に浮いている。
バスは朝方に東京駅に到着し、その後は電車を乗り継いで病院に向かう。
はとちゃんの母親が入院している病院だ。
以前の病院から、今は転院している。
精神科単科では見れない疾患の治療のためだ。
いや、治療というより療養……痛みを穏やかにするための、終末期医療だ。
はとちゃんの母親が、余命を宣告された。
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