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湯豆腐
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ピーッピー♪
「おい。サンマ、焼けたぞ?」
「あ、コッチももうすぐです。」
湯気の向こうから、谷村が返事をした。
「酒は、コレで良いか?」
「はい。じゃあ、食べましょうか。」
湯豆腐を取り分けた後輩が、ニッコリ笑った。
*****
出張先で食った豆腐。
それがさ、やたら旨かったんだよなー。
で、ウッカリ大量に買い込んじまった。
そこまでは、良かった。
宅配便にしたから、重くなかったし。
…けどさ。
[一人で、この量の豆腐を何日かけて食うのか?]
それを考えたら、かなりムダで虚しい買い物をしたような気になって
たまたま資料について電話をしてきた後輩に、そのままを話してみた。
『湯豆腐って、どうすか?ちょうど朝晩ひんやりしてきましたし。先輩が一杯飲むには、ピッタリのメニューじゃないスか。』
「でもさ。俺んち、鍋が一つも無いんだ。」
『え。…はあぁっ!?ちょ!山中さんて、毎日何食ってんですか?』
「外食だ。それか、酒と、ツマミ。ついでに言うとさ、湯豆腐って、豆腐の他に何入れんだよ?」
『……わっかりました。土鍋と具材持って、今から行きます。』
「おう。悪いな。酒はタンマリあるからな。持って来なくて良いぞ。」
「ハイハイ。」
*****
土鍋を背負って、右手にネギと春菊、左手にサンマを持って現れた谷村は、手際よくサンマを焼き、湯豆腐を完成させた。
それを仲良く並んで食ったまでは、覚えている。
谷村も、ご機嫌で、飲んで食ってた筈だ。
なのに
一体何がいけなかったんだ?
俺は放置された土鍋を見て、溜め息をついた。
*****
「山中さん、酷いッスよ!」
全身をワナワナ震わせて、叫んだのは、確かに谷村だった
と思う。
思うんだが
あんなに悲しそうな谷村の声を聞いたのは、初めてだった気がする。
というか、俺はそんなに酷いことを言ったのか?
寝ぼけた頭をいくら傾げたところで、思い出せる筈もねぇよなー?
チビだの、バカだの、単純だの。
素面の時や、勤務中にも、散々貶した覚えはあるが
アイツがあんな声を出したことなんて、1度も無かった。
どうやら、谷村はあのまま出てってしまった、らしい。
それで、俺は酔いに任せてひとり爆睡か…。
―何だか、この世で一番最低な人間になったような気分だ。
スマホ片手に、俺は少しの間考えた。
―こういう時に、アイツが頼れるのは、たぶんコイツだろう。
同期の名前を迷わずタップした。
「おぅ。もしもし、和泉か?」
『あぁ、山中か。…谷村やったら、さっき帰ったで。』
―やっぱりか!
「アイツ、何か言ってたか?」
『んー?…なんや知らん、お前に「女なら今すぐ嫁に行けるんちゃうか?」って言われたゆうて、えらい怒っとったわ。』
―は?
「よ、嫁っ!?」
選りに選って谷村に?
『ふん。』
「俺が?」
『そうや。メッチャ料理上手いやん!って御満悦でな、そない言うたんやて。』
「それで、なんで怒るんだ?別に、普通に言うだろう?」
『なんでやねん!アイツ、男やぞ!?』
「ソコは言葉のアヤってやつだ。それに。褒めてんだから、いいだろ?」
「…あんなぁ、山中。」
「なんだよ!?」
『お前な。メッチャ可愛い新人の女子に「山中さんてウチのお父さんみたいやわ」って言われたら、嬉しいか?』
「なんでやねん!!」
『いやいや。その子、お父さんダイスキな子でな、本人はこれ以上無い位に褒めとるつもりやってん。』
「…それでも、かなりビミョーだな。」
『そやろ?』
「ああ。」
『言葉ってな、言われたタイミングとか。言うてきた人とか。その言い方とか。それによって、傷付いたり、腹が立つこともある。ややこしいもんやねん。』
「たしかに、そうだな。」
『面倒やけどな。山中も口に出す前に、もうちょっと考えた方がええで。オレも修行中やから、偉そうに言えんねんけどな。』
「えっ!?…もしかして、おまえも、誰かを怒らせたのか?」
『ああ、こないだウッカリやってしもて、エライ目に遭うた。』
妙に実感のこもった言い種に、興味が湧いた。
「それって、嫁さんか?」
『別に、誰でもええやろ。ほな、またな。』
素っ気なく切られたが、何だかアヤシイ…。
―アイツ、逃げたな!?
って、そんな場合じゃなかった。
問題は谷村だ。
嫁、というワードがダメだったのか?
そういやアイツ、なかなか彼女が出来ねぇって、この前、愚痴ってたっけ。
よし!!
谷村の為に合コン、セッティングしてやるか。
谷村は…平凡、つか大人しい系が好みだっけ?
久々にヤル気になった俺が、更に谷村との関係を拗らせしまったのは…
誰のせいでもないと思いたい。
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