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文化祭
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ルリくんは、何もなかったかのように穏やかに接してくれたけど、僕は納得できなかった。
だって、本当にひどいことをした自覚があるから。
何もなかったかのように振舞っていいのは、被害者だけだ。
僕がのうのうと、あのグループとまるで友達のように振舞っていいはずがない。
それでも、許されたいと思った。
初めて伝えた謝罪に、驚いた顔をしたルリくんは、ちょっとしてやっぱりまた穏やかに微笑んだ。
「オレはもうずっと友達だと思ってたよー。改めまして。よろしくね、累くん」
券を差し出す僕の手を両手で包んで、ルリくんはいつものように優しく答えてくれた。
やっと、自分の過去と向き合えた気がした。
「え、えーと。それじゃあ、デート券は途中までトップだった、リチェール・アンジェリー君に譲るということでよろしいでしょうか……?」
すっかり盛り下がってしまった会場に、恐る恐る司会が確かめてくる。
恥ずかしくて、また俯いた瞬間、ルリ君は僕の手から券を抜き取り、マイクに明るい声を届けた。
「とったどーーー!」
その瞬間、どっと会場が笑いに包まれる。
司会もホッとしたように明るさを取り戻した。
「なんということでしょうか!優勝した折山君より嬉しそうにしています!」
すっかり笑いを取り戻した会場に、ホッとして、やっと客席に顔を上げることができた。
遠くで、拍手してる雄一に向かってこっそりピースを送った。
やっと、恋愛にもまっすぐ向かい合えそうな気がする。
「それでは、月城先生から優勝者にメッセージをどうぞ!」
この場合は、ルリ君になるんだろうか。
僕はもう空気を読んでステージから降りた方がいいのかもしれない。
「折山」
一歩、下がろうとした時、マイク越しの先生に呼び止められた。
驚いて振り返ると、そこには一年前と変わらない穏やかな表情で笑ってくれる月城先生がいた。
「本当に、成長したな。
お前が登校できるようになったのは、お前の強さだ。自信を持て」
僕はいつも、自分の弱さをずるく利用して、この人の優しさを独り占めしようとしていた。
それに、気付いていただろうに。
こぼさないと思っていた涙が溢れて、当時の思いが駆け巡る。
自分のズルさも弱さも嫌という程、自覚した。
でも、僕はやっとそれに向き合ったんだ。
そう思えた。
叶わなかったけど、この人を好きになってよかった。
心から思う。
ありがとう、ございました……と、掠れた声は届いただろうか。
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