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鍵
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「蒼羽さん」
名前を呼ばれて顔を上げる。
少しぼーっとしていたらしい。
草薙は相変わらず無表情だけど、どこか心配そうにも見える。
「なーんか、萎えちゃったねぇ」
ハハッと笑い、そのままごろんとベッドに寝転がった。
「どうする?やる?」
草薙を見上げれば、出来るはずないだろと言わんばかりに怪我した方の手を上げてくる。
もちろん冗談だし、僕もそんな気分じゃないんだけどね。
「帰ろっかなぁ。今日はごめんね」
草薙も巻き込まれて疲れただろうし。
寝かせてあげようと、立ち上がると手を掴まれた。
「話したくないなら聞かないし、束縛されたくないならしない、あんたは好きにしてたらいい。
でも、今日くらい恩を着せていいなら、これ受け取ってくれません?」
そう言って差し出して来たのは、受け取ることを二度断った鍵だった。
「普通、セフレに家の鍵持たせるの嫌じゃない?」
草薙の考えがわからない。
少なからず僕のことは気に入ってるんだろうけど、恋愛感情があるようには見えない。
今回こんな目にあって、余計に家になんて来て欲しくないって思うものじゃないだろうか。
「彼女とか、その辺のセフレに渡すのはごめんだけど、蒼羽さんは俺に興味ないからむしろ信用できます」
………その言葉は、妙に納得できるものだった。
自分を束縛しない。愛さない。それでも気に入ってはくれてる。
「さすがに目の前で何度か危ないところ見ると、放っておけないでしょ」
それでいて、守ろうとしてくれる。
淡白で、冷めきった関係なのに、草薙の見返りのない優しさだけが伝わる。
ここは僕の居場所ではない。
でも、草薙はいつでも気まぐれで来ても受け入れてくれる。でも、依存したりはしない。だから、いつ離れても、また受け入れてくれという安心感があった。
「お前の鍵なら、持っててもいいかもね」
ほんの、気まぐれだった、
多分、怪我をさせてしまった負い目もあるから、なんとなく。
渡された受け取ると、草薙は一瞬ホッとしたような表情をする。
「そんなに僕の体好き?」
その顔が少し可愛く見えてからかうように頬を突いた。
「まぁあんたの取り柄って顔と体くらいでしょ」
もうしれっといつもの無感情な顔に戻ってる。ああ、やっぱこいつ可愛くない。
「いや他にもあるでしょ。中身とか」
「中身だけ見たらあんたほどのクズはいないっての」
本当に可愛くない。
可愛くないけど、クズだと分かりきってると言われた方がいい。
僕をよく分かってる。
信じてたのに、とか。好きになっちゃった、とか。本当にうんざりだ。
あの女が宙に身を吊らせた日。
僕は地獄から解放された。
だから、トラウマだなんて思ってないし、あんな女いなくなってくれてよかったと思う。
引きずってなんていない。
いつも、勝手に被害者面する弱くて汚くて浅ましい女への重い嫌悪感だけはあの日からずっと消えずにある。
「まぁでも俺は、蒼羽さんクズを突き通すことが優しいとも思うし、むしろ正しいとさえ思いますけどね」
草薙がフォローになってるか怪しい言葉を続ける。
「俺、苦手なんですよ。真面目で一途を押し付けてくるやつ。今日のやつがわかりやすいけど気持ちが違っただけで被害者面うざいし。だから、蒼羽さんくらい裏表のないくクズがそういう意味では一番好きです」
なんて、軽くて軽率な好意なんだろうと思う。
でも、それがやっぱり僕には心地いいんだ。
「鍵は受け取ってあげるけど、草薙のこと特別扱いしてるわけじゃないから、勘違い起こさないでよ?」
笑ってそういうと、草薙もタバコに火をつけて、ねーよ、と笑いながら煙を吐き捨てた。
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