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ハロウィン-灰吏・春陽の場合
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もう十月も末。少し肌寒くなってきた今日このごろ。いつものようにリビングで新聞を広げる。
「あの、おはよう…ございます、灰吏さん…。」
いつもなら普通に入ってくる春陽が、今日はなぜだか頭だけ覗かせている。
「どうしたんですか?そんなところで立ち止まって……。」
ドアを開けると、デフォルメされた幽霊のプリントされたポンチョに身を包んだ春陽が立っていた。
「それは?」
「今日、ハロウィンじゃないですか。ウリエラと話してたんです。なにか仮装したいねって。」
だからか。数日前から2人で何やら楽しそうにしていた。街中に買い物に行ってみたり、そこで色々と買い込んできたり…。
「そうでしたね。すっかり忘れてました。とても似合ってますよ、春陽。」
恥ずかしげに俯いていた顔が、私の言葉にバッと顔をあげる。嬉しいことこの上ない、といった表情に、私も温かい気持ちになる。
「ありがとうございます、灰吏さん!」
「そうでした。この間ハロウィン用のオレンジのかぼちゃを頂いたんです。食用にもならないということでしたし、一緒にジャック・オ・ランタンでも作りませんか?」
「ジャック・オ・ランタン、ですか?やりたい!」
「ふふ。じゃあ庭でやりましょう。丁度天気もいいですしね。あぁ、服も汚れるといけないので着替えてきてください。」
▽
「さて、準備はできましたね。まずは、顔を描きましょうか。」
油性マジックを手渡すと、春陽がせっせと顔を描いていく。
「あ!」
「どうしました?………っふふ。すごく…個性的な顔になりましたね。」
「難しいです、顔って…。」
▽
次に中身をくり抜いて、ペンで描いた線に沿って切込みを入れていく。そして乾燥。日光に当てて、水気を飛ばす。
途中休憩を挟みつつすべての作業が終わったのは三時を少し回った頃だった。
「はぁ、つっかれたー。そうだ、灰吏さん、Trick or Treat?」
「お疲れ様です。じゃあ、Treatにします。おやつ作ってありますけど、食べますか?」
ぐぅぅぅぅ
「食べます…。お腹は正直でした。」
どちらからともなく笑いが零れる幸せな午後。
春陽がおやつを食べている間、私は別室へと向かう。そこには合間に作った、小さなジャック・オ・ランタン。
本当は夜に見るのが綺麗なランタンだけれど春陽は見れないから。せめて、と暗室に小さいものを用意した。中に小さい蝋燭を入れて、準備は完了。
頃合を見計らってリビングに戻ると、丁度食べ終えた春陽がいた。
「春陽、ちょっとだけ、ついてきてもらってもいいですか。コレをつけて。」
渡したのはアイマスク。我ながらキザなことをしていると思う。
春陽の手を引いてドアを開ける。アイマスクを外すと、感嘆が漏れた。
「きれい……これ、灰吏さんが?」
「さっき作ったの、春陽はちゃんと見られないので、せめても…という感じですが…」
「すごく…すごく嬉しいです!僕、来年も再来年も、ずっとずっと灰吏さんとこうしていられたらなって。皆でお祝いしましょうね。」
「そうですね。私はずっと、貴方の傍にいますよ。だから毎年やりましょう。」
部屋を移動する時からずっと離れない、この手と手が、今の私達の、精一杯の距離。
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