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クリスマス 冬夜、ウリエラ
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『メリークリスマス』
チンとなったグラスには、上品に注がれたシャンパンが、気泡を踊らせている。
世間ではカップル達が甘く囁きあっている頃、例に漏れず、しかしヴァンパイアが、イエスキリストの生誕を祝福していた。
ホテルの最上階の1室。スイートと呼ばれるその部屋で、甘い夜を過ごす影は二つ。
艶やかな黒髪の美しきヴァンパイアと、彼に魅せられた清き天使
時は数時間前に遡る。
▽
「とーやとーや!今日何の日か、分かる?」
「知らない。神の子の誕生日なら、俺らが祝う必要も義理もないだろ」
知らない、なんて言いながらちゃっかりと回答を出してくるあたり、抜け目のない。
「分かってるじゃん!」
「なぁウリエラ、今日は午後から外出ようぜ」
唐突に発された言葉は、今までのやり取りを掻き消すかのような響きを含んでいて。それでも初めての2人での外出に、僕はときめく。
「え、うん、いいけど、なんで突然?」
「いいだろ、別に。なんだって」
▽
「初めてだよね、2人で外出するの!」
午後三時、家を出た2人は街へと向かってぶらぶらと歩く。気になる店を覗きながら、のんびりと。
それでも街はカップルで溢れていて、なかなか思うようには進めない。
はぐれないようにぎゅっときつく握った手も、この人混みの中では誰も気づく人はいない。誰かの視線を気にせずに、外で手をつなげる。それが僕には嬉しかった。
「そろそろ休憩しようか」
そういっても入ろうとしたカフェはどこもいっぱいで、しばらく歩いて漸く入ることが出来た。
「あー、疲れたー。なんでこんなに人が多いのさ!」
僕の心からの叫びに、冬夜は苦笑を零す。
「外に出たいんだろ、なんたって”クリスマス”だしな」
「あの、失礼します。ご注文はお決まりですか?」
店員が注文を聞き取りに来た。それも女。冬夜の方を見ては頬を染めている。
面白くない
それに気づいてないように冬夜は注文を始める。
「ウリエラは?」
突然かかった声に、僕は慌ててメニューを開く。最後までざっと目を通して、一番馴染みが深いのを選んだ結果
「ココア」
店員と冬夜が、クスリと笑う。
悪かったな、子供っぽくて。なんて拗ねるのも子供っぽいんだけど。
注文していたものが運ばれてくる。ゆっくりと暖かいココアを飲みながら、目の前でコーヒーを啜る冬夜を眺める。それをかっこいいなーと思うのは、僕だけじゃなかったみたいで。
その時僕は聞いてしまったんだ。
『ねぇねぇ、あの人めっちゃかっこよくない?』
『ね!一緒にいる子も可愛いよねー』
『声かけてみる?』
『いいよ、行こっか』
なんていう会話を。
「あのぉ、お兄さん達ってお友達同士です?」
「はい?」
冬夜が応対する。顔は最初に僕達が出会った時の、あの営業スマイル。
「お時間があったら一緒に遊びに行きませんか?」
冬夜が返事をするとは思わなかった。でも、不安になって、彼の服の裾をつまむ。
「って言ってるけど、どうする、ウリエラ?」
どうするってなに?冬夜は行きたいの?初めてのデートだって浮かれてたのは僕だけだったと言われたようで、すごく、悔しい。
「知らない。行きたいなら冬夜1人で行けば」
冬夜はフッと笑う。さっきまでの作り笑いじゃなくて、素の顔で。何が面白いのか全くわからない。
「というわけでうちのお姫様がご立腹だから、行かない」
「でも…」
「頭まで悪いとか救いようのないバカじゃない?でも、じゃねぇ。さっさとどっか行け、ブス」
最後の冬夜の言葉に、涙を浮かべて2人は去っていく。
「ウリエラ、そろそろ出ようか」
レジに向かって歩き出した冬夜の後を、置いていかれないようについていく。
外に出ると、もう大分暗かった。
再び冬夜に手を引かれる。もう帰るのかと思ったけど、彼は家とは真逆の方向に進んでいった。
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