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バーの片隅に毎晩のように子供がいれば、それは当然のことながら目立つ。
マスターは配慮してくれていたが、時々、酔った客がクレトに絡むこともあった。
それはクレトが成長するにつれて増えていった。
可愛らしい子供は思春期を迎えて独特の顔立ちに変わった。
子供と言うには無邪気さに欠け、しかし大人と言うには穢れていない、特有の鋭さと危うさを兼ね備えた成長過渡期の顔。
少年らしさを残した体付きが、ませた表情とアンバランスな魅力で人を引き付ける。
当のクレトは全くそんなことに気付いていない。
その無自覚もまた魅力であり仇だった。
「こんばんは」
クレトがカウンターの端でバンドの演奏に耳を傾けながら食事をしていると、隣のスツールに男が座った。
年の頃は50前後だろうか。
ピザとビールの摂取を控えて定期的に運動することを医者から勧められてもおかしくない体形のザカライア-通称ザックが座るとスツールが悲鳴を上げる。
クレトは毎回、いつかスツールの脚が折れるんじゃないかと思っているが、それを本人に伝えたことは無い。
それすらも面倒だと思うほどクレトはこの男に興味が無かった。
だからクレトはちらりと彼を見上げ、素っ気なく頷くと食事を再開した。
「相変わらず冷たいなぁ」
ザックは自称クレトのファン1号だ。
それはクレトにとって嬉しくもなんともないことだった。
嫌悪するのも面倒だと思うほど無関心、つまり、どうでもいい人間。
そんな男にファンと言われても、嫌だと思う感情すらわかないほどだった。
「今日は弾かないのかい?」
クレトは彼の方を見もせずに頷いた。
「それは残念。俺は君のピアノを聞きに、ここに来てるのになぁ」
嘘つけ-クレトは内心毒づいた。
この男がピアノに興味があるわけない。
クレトは知っていた。
ザックがこの店に通うのはピアノではなくクレトが目当てなのだと。
それに気付くのは簡単だった。
ザックがマスターの目を盗んでは頻繁にクレトにちょっかいを出していたからだ。
と言っても、それほど大胆なものではなく、隣に座って話しかけ、自然な感じで肩や手に触れてくる程度。
しかし、そのボディタッチがやけに多いことと、ザックのクレトを見る目が、単なるスキンシップではないことを物語っていた。
だからクレトは食べ終わった食器を下げにカウンターの中に入ると、たまっていた皿やグラスもついでに洗って、さっさと休憩室へ行ってしまった。
警戒しつつ2人を見ていたマスターの視線の先で、ザックがため息をついて肩を落とした。
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