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11(流血あり)
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誰かが肩を揺すっている。
自分を呼ぶ声で我に返れば、レオンの右手には血がついていて、左手には意識を失い、ぶらぶらと頭を揺らしているザックの襟が握られていた。
ほどなくして警察が来てザックと共にレオンも連れて行かれた。
クレトはレオンと離れることを半狂乱になって拒否した。
もし声が出るなら、喉が潰れるほどに泣き叫んでいるであろうクレトの様子は無声映画のようで、むしろ耳を塞ぎたくなるほどだった。
マスターが行き先は同じ警察署だ、と説明してもクレトは汗で髪が濡れるほど暴れて別々の車に乗るのを嫌がった。
それでも同乗はできないと言われ、マスターはクレトを拘束するように抱きしめて警察署に付き添った。
クレトは医師やカウンセラーと面談したが、落ち着くまでには至らなかった。
それでも、レオンを待つと伝えることはできた。
先に帰ろうという言葉にも耳を貸さず、頑なに<待つ>と書いた文字は震えていた。
クレトは、マスターと廊下の硬いベンチの上に腰を下ろした。
カタカタと震え続けるクレトの顔は蒼白で、唇まで白くなっていた。
貸してもらった毛布にくるまれているが指先は冷たく、爪までも白い。
調書は明日でも良いと言われたが、こんな状態ではしばらく無理だろう。
「悪かったな、クレト。裏口のカギ、閉め忘れてたみたいだ。すまない」
しかし、マスターの声もクレトの耳には入らないようだった。
かなり待たされてからレオンが廊下に出てきた。
「帰るか、クレト」
クレトの隣に腰かけ、レオンが毛布ごと抱きしめるとクレトは小さく頷いた。
レオンはクレトを抱きしめたまま、彼を挟んで反対側にいるマスターに謝罪した。
「店で騒ぎ起こしたんだ。けじめ付けて辞めるよ。世話になった。ありがと、マスター」
「辞めてどうすんだ」
「さぁな。何も決めてねぇ」
自嘲気味に笑うレオンの手は傷の手当てがされていて痛々しい。
「その手じゃピアノ弾くどころか字も書けないだろ」
レオンは肩をすくめて同意を示した。
諦めているような彼の目がマスターは悲しかった。
「クレトを守ってやれず済まなかった」
「マスターの責任じゃねぇよ。俺の責任さ。商売道具の手も痛めて、大事なクレトも傷付けて、俺が馬鹿なんだよ」
マスターはクレトに目を移した。
まだ顔色は悪いが震えは治まっている。
「クレトにとって俺の店が苦痛だってなら止めないが、もし、そうじゃないなら、手が治ったら、また、うちで働かないか?」
レオンは目を見開いた。
親切にもほどがある。
この世界で良く生き残ってこれたな、とレオンは驚いた。
「クビ、覚悟してたんだけどな」
「お前だって被害者だろ」
苦笑するレオンにマスターが申し訳なさそうな顔で笑った。
「んじゃ、ご厚意に甘えさせてもらう。恩に着るよ、マスター」
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