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熱に苦しむ井端甫の側から離れようとしない向田篤志と、解毒薬を調合している九十九昴を残し、共同スペースへと戻ってきた藤城悠達はただ待つことしか出来ない。
「昴のやつ…、久しぶりにあれを出してきたな。」
「ああ。…きっと、もう目の前で人が死ぬのを見るのは嫌なんだろう。」
「あいつがあの道具を使わなくなったのって、あの事件以来だったか…」
3年前、まだ19歳だった九十九昴の目の前で両親が殺されたのだ。
九十九家は古くから続く匙家の本元であり、九十九昴はその九十九家本家の、唯一の跡取りであった。
九十九家の式たりとして、九十九家代々に伝わる秘事は成人の義を執り行った際に後継に伝えるという決まりがある。
19歳という若さで先代を失ってしまった九十九昴は、九十九家の秘事を知ることはなく、唯一両親から受け継いだ物は、幼い頃から教え込まれた薬学の知識のみであった。
幼い頃からその才はずば抜けていて、九十九家始まって以来の神童とさえ言われた程の実力を持っていた。
しかし、その力は両親の死と共に彼の中で眠りについてしまった。何かとあると、薬を作っていた九十九昴がそれ以来ぱったりと、薬作りをやめてしまったのだ。
それが今回、目の前で死にそうになっている井端甫のために解毒薬を作ろうとしている。
藤城悠には、止まっていた時間が動き出してしまったように感じられた。
ただ九十九昴の平穏な人生を望んでいる藤城悠にとって、物事の真相に近づくことを彼の為だと願う自分と、躊躇う心がたまにぶつかり合うのだ。
ー俺は、どうしたいんだ…………。
「悠、悠‼︎」
有村春一に名を呼ばれ、意識をそちらに引き戻された。
「…あぁ。悪い、考え事をしていた。」
藤城悠の心ここに在らずといった反応に、有村春一は思わずため息をつく。
「…はぁ、……あいつが心配なら側にいればいいだろ。全く、どうして俺の側にはこう焦れったい奴らしかいないんだろう…。」
思わずといった風に漏れてしまったため息に藤城悠はニヒルに笑って見せた。
「この中で一番焦れったいのはお前だと、俺は思うけどな。」
藤城悠に虚を突かれた有村春一は、腰掛けているソファに置いてあったクッションを藤城悠に向かって投げつけた。
「うっさい‼︎……相手はノンけなんだ、そうズカズカといけるかよ…。」
有村春一の段々と尻窄みになって行く言葉に兵藤晃は目を丸くした。
「春一、お前、そんな相手がいたのか⁈」
「そうなんだよ。こいつの場合、ノンけ云々よりもまず、自分のその口の悪さをなんとかした方がいいと思うんだけどな。」
「ほっとけ…。」
純粋に恋をしている有村春一を羨ましく思ってしまう自分に、眉間にしわを寄せる。
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