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14 (過去)
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※※※1年前
陣内組から足を洗い、井端の屋敷に拾われてから随分とたった頃。
井端甫の元許嫁である川島亜希が、陣内組次代若頭である貞浩一と結婚した。
それを機に、川島亜希が井端甫を訪ねてくる事はなくなったが、向田篤志はそれにより生じてしまった可能性を憂慮していた。
もしも、川島亜希が自分の存在を陣内組に伝える事があれば、向田篤志も、井端家も何をされるかわからない。
きっと向田篤志を探しているのはDEDだろう。陣内組はDEDから探せと言われて探しているに過ぎない。陣内ならまだしも、DEDとなると事は急を要する。
正体の掴めないDEDが何をして来るか、皆目見当もつかないが、相手が残虐な事はたしかなのだ。
川島亜希が陣内に嫁いでから一年後、向田篤志は、陣内組にわざと情報が行くように手配し、井端の屋敷を後にした。
取り敢えず井端家…いや、井端甫を巻き込まない様にすることで、一杯一杯だった向田篤志は、行く当てもないままに勝手知ったる裏通りへと足を運んだ。
丁度日が暮れて、あたりが暗くなった時にその男は現れた。美しい赤髪が印象的な男。
怪しげで、掴み所がなく、まるでそこに居ないかの様な、しかしどこか迫るような存在感を与えてくる不思議な男。その口元がニヒルな笑みを浮かべた。
「こんばんは。向田篤志。」
「誰だ…」
陣内組では見たことのない顔だった。他に自分に接触して来るだろう相手は一つしかない。
陣内組に居た時ですらその一人とも面識の無かった向田篤志には、その男がメンバーであるかという事を図り兼ねていた。
「やだな、もう忘れたのかよ。あんなに電話でお話ししたじゃないか。」
この言葉で、答えは出た。
「DED…か。」
「さぁね。俺がDEDだとは言っていない。それよりも、早とちりな君に忠告をしに来てやったんだ。」
馬鹿にした様な笑い方。こちらを蔑む様な目。向田篤志は不快に感じ、相手を睨みつけた。
「忠告だと?」
「井端甫…君の大事な人だろう?死なせたくないなら、今すぐに屋敷に引き返した方がいい。…まぁ、面白いものが見られるよ。」
やってしまったと思った。遅かったんだと後悔した。そして何よりも不思議に思った。
「何故、そんな事を俺に教えた?今すぐに俺を殺せば、お前達の杞憂も無くなる訳だ。意味が分からない。理解不能だ。」
「わかってるじゃないか。そうだ。君は杞憂にしか過ぎない。心配してもしょうがないようなどうでもいい存在な訳だ。つまり、いつ殺したっていい。
それなら俺は、大切な奴の目の前でかっこ悪く無様に殺してやりたいね。」
外道だと、見下してやりたかった。
しかし、そのおかげで今、井端甫を助ける事が出来るかもしれないチャンスを与えて貰えたんだ。そう、立場は絶対的に向こうが上。与えられている。
そんな状況下で、わざわざそのチャンスを無駄にするわけにはいかなかった。
「そのどうでもいい存在が、目の上のたんこぶにならないとは限らないわけだがな。」
そう言い残して、向田篤志は井端の屋敷に向かって走り出した。とにかく早く、持ち得る限りの知識をフル稼働させ、近道をとおり、井端甫の元へと急ぐ。
ただ無事で居てくれと願って走った先に見えたのは、夜闇を赤々と照らす炎と、黒煙。目の前が真っ暗になり、その場にへたりこみそうになった時、井端甫の笑顔が頭をよぎった。
こっそりと出し続けた手紙。相手が向田篤志だと知らず、手紙の相手の誰かに優しそうに微笑む姿。
屋敷の一部が倒壊する音を聞いた次の瞬間、向田篤志は屋敷に向かって走っていた。遠くの方から、救急車と消防車のサイレンの音が聞こえた。
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