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呆然と佇んでいると、ある香の香りに我に返る。
ーこれは…彼奴が前に俺に使ったものと同じ香り…
香の香りを辿って歩いて行くと、路地裏に入った。路地はまだ香りが強烈な程残っており、油断すれば意識を失いかけそうになる。
表通りとは対照的に薄暗い路地から手がかりを探すことは困難を極め、徐々に香の残り香が体に回って行くのがわかる。
意識を手放すわけにはいかないとわかってはいるものの、体はいうことを聞いてくれない。
壁に背を預けズルズルとしゃがみ込み、目を閉じかけた時、地面に光るものが見えた。
重たい体をなんとか動かし、光るものを手に取ると、それは薄暗い中でもすぐにわかる程見慣れた、愛しい人へと幼い頃に送ったペンダントだった。
10カラット相当のカボションエメラルドの中央に昴の、つまり牡牛座のマーク(♉︎)が刻まれている、この世に一つしかないペンダント。
ーあぁ、遅かった…。
ペンダントを握りしめ、朦朧とする意識の中胸ポケットから携帯を取り出して通話ボタンを押す。藤城悠から電話をかけるのは始めてだった。
「もしもし…今、昴のペンダントを…見つけた。一体…昴を何処に…連れて行った…。
約束を破る気か…取引…したのを、忘れたとは言わせない…ぞ。…史隆。…っ、」
『何を言っているんだい?約束ならちゃんと覚えているさ。契約違反はしてないはずだよ。それより…君、一体どうした?
とっても辛そうだね。いっそのこと意識を手放してしまいなよ。ちゃんと迎えに行ってあげるから。』
「ふざけるな…。昴を…返せ。」
この言葉を最後に、藤城悠は意識を手放した。電話の向こうで藤城悠の意識が失われたことを確認した夏目史隆は、そっと囁いた。
『よかったじゃないか。
これでようやく、君は罪から解放される…』
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