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「昴の体は大丈夫なんでしょうか?」
藤城悠は今だに青白い顔の九十九昴を見つめて呟いた。
「今夜あたりから熱が出るだろうけど、取り敢えずはもう大丈夫だよ。…にしても酷いことするね。右手の刺し傷は一生消えない傷になる。それと、目が覚めた時に暴れるかもしれないから気を付けて。」
片付けを済ませると、早乙女喜一は一人先に帰って行った。
「兵藤、雪、今日はもう遅いから家に泊まって行ってくれ。ワンルーム用意してある。」
「お前はこいつについているのか?」
「ああ。目が覚めた時に一人じゃ辛いだろう…。」
この調子だと明日は店は開けられないな、と思いながら、兵藤晃は藤堂雪を連れて用意された一室へと向かった。
「昴…」
九十九昴の頬にそっと触れ、熱がで始めていないか確認する。
頬はほんのりと暖かく、唇はみずみずしい。
何時もの彼と変わらない。顔の青白さを除けば、変わらぬ美しい彼がそこにいた。
しかし、その唇が何時もの様に緩く弧を描き、藤城悠の名を呼ぶ事はない。
翌日、兵藤晃と藤堂雪を見送ると、店に貼り紙をした。
私用のため、しばらくの間喫茶を閉めさせて頂きます。
「BARの方はやるんだ。いいの?昴の側に居なくて。」
有村春一が貼り紙を見て呟いた。
「昴が目を覚ますまでは、BARはお前に任せる。流石にBARの方の客は失う訳にはいかないからな…頼んだぞ。」
「うげっ!俺一人かよ⁉︎
…ったく、今度なんか奢れよ‼︎」
なんだかんだ言って、意外と優しいのが有村春一の長所だと藤城悠は思う。
その日の夜、九十九昴は目を覚ました。熱は昨夜できったのか、引いていた。
始め、ぼんやりと辺りを見回したかと思うと突然起き上がり、自らの体を強く抱きしめた。 まるで、何かを身のうちに閉じ込めているようだ。
「おはよう、昴。気分はどうだ?」
藤城悠の優しい声に一瞬肩を震わせ、視線を上げた。
顔をみた瞬間、彼であると認識した瞬間、抑えていた恐怖や絶望、自分に対する嫌悪感が溢れ出し、涙が止まらなくなる。
そっと抱きしめる腕が力強く、一回り大きな彼の体に包み込まれる温もりが心地よく、強張った心をほぐしていく。
「好き…だって…愛してるって…言って?名前、呼んで…いっぱい…いっぱい…」
抱きしめた腕の中で震える肩を…
愛を求める彼を…
名を呼んでくれと泣く彼を…
愛おしいと感じた
何よりも失いたくないと感じた。
「昴、好きだ…好きだよ。愛してる…昴だけを愛してる…昴…俺の昴…」
ただ、傷付いた彼を癒す為に囁き続けた。
九十九昴の心が少しでも、癒される様に。
心の中でつぶやく、彼に向かって言ったら、きっと傷つけてしまうだろう。
ー守ってあげられなくて…ごめん…
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