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次の日、藤城悠と九十九昴は向田篤志の元を訪れた。
「突然申し訳ありません。勝手に連絡先を調べた事なども、仕事だとしても不快な思いをさせた事に変わりはありません。」
「やめてください。そのような事を話に来たのではないのでしょう。」
向田篤志と待ち合わせたのは『SUBARU』から徒歩3分程の図書館だった。平日の昼頃ということもあり、館内に人の姿は無く、閑散としている。
図書館の中は大きな読書スペースの他に、個室が幾つか用意されている。222ブース、そこが今回の待ち合わせ場所だ。
向田篤志の装いは以前と変わらず、銀縁眼鏡に、黒髪を全てオールバックにして、スーツをきっちりと着こなしている。唯一異なる事といえば、黒い皮のコートを着ている事だろうか。
組の元若頭という認識をした上で、その装いの向田篤志はあまりにもそれらしく見えてしまい、まさか井端甫の世話役をしていた者とは到底想像することすら出来ない。
「井端甫さんという方をご存知ですね?」
「…えぇ。一時期甫様のお屋敷で働いておりました。…甫様が何か?」
井端甫の名前を出した瞬間、向田篤志の表情が陰った。
「彼は、自身に手紙を書き続けた人をずっと探していらっしゃいました。調べた結果、貴方がその相手であるということが判明した。…そうですよね?」
「………。」
沈黙を肯定と受け取った藤城悠は話を続ける。
「あの手紙の内容は貴方の本心ですよね。…今回、私共はその気持ちが今も変わらずあるのかという事を確認に来たのです。」
「……無いですよ。甫様には、相手が私で無いと伝えて頂きたい。」
向田篤志の返答を予想していた藤城悠は動じること無く淡々と用意してあったカードを切っていく。
「…それは、貴方が菅原ではなく向田であることと関係しているのでしょうか?」
その言葉に向田篤志の目が丸くなり、眼鏡の奥の瞳がまるで別人の様に鋭く変わった。
まさに組の若頭、獣の眼光であった。
「どこまで知っている?」
トーンの落ちた低い地に響く様な声に藤城悠は微笑みを浮かべた。
「どこまで…?そんなの決まっている ……… ………全て、ですよ。」
「何が目的だ?」
「目的なんてとんでもない。私はただ依頼人のために情報を集めているだけですよ。……ただ、貴方が差し出す情報次第では、貴方が守ろうとしている者も、あなた自身の安全も全てこちらで保証して差し上げることが、可能ではあります。」
「必要無いな。俺はすでに守るものなどない。」
向田篤志の口調が変わり、雰囲気が一変したところで藤城悠は思い切り向田篤志を殴った。
「どの口がそれを言う。…いい加減にしろよ、この自己中男。頭はいいくせに肝心な事が何もわかっちゃいない。」
九十九昴は決して口を挟む事はしない。ただ藤城悠の事を信じ、向田篤志からの言葉を待つのが彼の役割だ。
「手を上げるなんて、組の元若頭相手に中々強気だな。」
口から垂れた血を拭い、藤城悠を睨みつける。
「関係ない。そんな事はどうでもいい、問題なのはあんたが何も知らない事だ。…井端甫の現状を、」
「??」
藤城悠の言葉に先程まで醸し出していた裏の雰囲気を消し、慌てた様子で迫ってきた。
「どういうことだ⁈」
「あんたは自分の身を隠すのに必死で何も知らなかった様だが、井端甫は退院してから後、陣内組からいわれもない借金を背負わされて、苦しい生活を送ってんだ。
陣内はあんたが消えたことで、あんたにとって井端甫が大切だと気付いた。
彼にかけられた借金はあんたをおびき出す為の物だ。
それでも、彼は今までずっと一人でそれを背負ってきたんだ。しかし…もう、彼は限界だ……追い詰められた彼が今…何を考えているかあんたにわかるか?」
胸ぐらを掴み、自分よりも少し背の高い向田篤志に真っ正面から向かい合い、語りかける藤城悠の手は、声は、少し、九十九昴にだけ感じ取れるほどにほんの少しだけ、震えていた。
「…………。」
「……彼は…………自殺する気だ…………」
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