アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
アルマン×ミシェル
-
ある日の午後、ミシェルはアルマンに風呂の用意をさせた。
いつものように、窓辺に置かれた古いテーブルに、湯の入った木桶がのせられた。
ミシェルはその中に漬かって、桶のふちに腕をのせ、窓の黄ばんだガラス越しにぼんやりと夕焼けの空を見ていた。やがて身を起こし、残光のために赤く染まった湯で身体をすすいで、立ち上がった。
ミシェルは美しかった。背丈こそ二フィート足らずしかないが、均整に限っていえば完璧といってよかった。
身長のほぼ半分を占めるしなやかな脚をしていた。
やわらかな黒髪にかこまれた小さな顔は愛らしく涼やかで、長い睫毛の下の大きな眼がとりわけすばらしく、晴れわたった日の泉のような紺碧だった。
彼はかたわらに用意してあるタオルをとった。
ミシェルは普段家の者が使っている蜂の巣織りのタオルが嫌いだった。
いつも自分専用の、軽くてやわらかなガーゼのタオルを愛用していた。
そのタオルで、顕微鏡でもなければ毛穴の見えないような、ひどくきめ細かい肌をぬぐうのだった。
腰にはもう陰毛が生えそろっていたが、それがまだ髪よりも細く、局部の青白い肌を飾る黒い羽毛といった風情だった。
寝台に腰かけて見守っていたアルマンが、ふいに手を打ち合わせて笑った。
「ミシェル、綺麗。花嫁さんの人形みたい」
大きな白いガーゼを頭からかぶるようにして身を包み、余った部分を後ろに長く引きずった様子が衣装のように見えたのだろう。
それに、大きさからいえばたしかに人形程度なのである。
無礼だが悪気のない相手の言葉を、ミシェルは目も上げずに聞き流した。
アルマンの顔がふいに歪んだ。彼は興奮したように立ち上がり、繰り返した。
「綺麗」
次の瞬間、ミシェルはきつく抱かれていた。
驚きはしなかった。
ミシェルは大きい人間たちの、気紛れで迷惑な愛情表現には慣れていた。
しかしミシェルにさえ一目置いている気弱なアルマンがこんなことをしたのは初めてである。
「やめてよ」
ミシェルは冷ややかに叱りつけた。
「そんなふうに抱いたりしないで。ぼくは人形じゃないんだからね」
アルマンはミシェルを離した。だが元の位置にではない。
ミシェルは一瞬で宙を移動させられ、寝台に横たえられていた。
自分の寝床ではなく、アルマンの広い寝台である。
起き上がろうとすると、両肩を押さえつけられた。
ミシェルは自分の上にのしかかる、巨大な男の影を見上げた。
アルマンの目には、これまで見せたことがないような、狂暴ともいえるほど強い光がやどっていた。
ミシェルは初めて、漠然とした恐怖を感じた。
もちろん、アルマンに自分を傷つけるだけの度胸があるとは思っていない。
ミシェルは自分が安全だと、どこかでたかをくくっていた。
もしも主人が弟とミシェルのどちらかを追い出すとしたら、それは多才で人気のあるミシェルではなく、愚鈍な弟の方になるだろう。
それを承知していたからだ。
だが、いつもと違うアルマンの様子には不安をおぼえた。
相手が、なにか強い衝動に突き動かされているらしいのがわかった。
それが何なのかわからないから不気味である。
起き上がることが許されず、また腕力ではかなわないことがわかっているので、ミシェルは早々と抵抗をやめた。力を抜き、手足を投げ出して天井を見上げる。
「ねえ、どうしたっていうの?」
ミシェルはおだやかにきいた。
「怒ったの? あのね、ぼくを抱きたいなら抱いてもかまわないんだよ。そう、ちょっとだけならね。ただ急にぎゅっとつかまえたり、痛くしたりしないでほしいんだ。そんなことしたら、ぼくお父さんに言いつけるよ」
ミシェルは酒場の主人を「お父さん」と呼んでいた。
普段ならば「言いつける」という警告はてきめんの効果があるのだが、今のアルマンは聞いているのかいないのか、あいかわらず熱狂したような目をしている。
彼はガーゼに包まれたミシェルの身体に手を置くと、うやうやしく撫でるようにした。
「ごめん。もうぎゅっとしない、痛くしない……だから言いつけない?」
「言いつけないよ」
ミシェルは和解のしるしににっこりと愛らしい笑顔を見せて、腕をさしのべた。
「さあ、もう一度抱いて。さっきみたいにじゃなく、そっとだよ。それで仲直りってことにしようよ」
だがアルマンは、起き上がるのを阻むようにミシェルの上にひろげた手を置いて、動かし続けている。
普通の人間ならばなんでもないはずのその手はミシェルにはひどく大きく、重く感じられ、息苦しさをおぼえる。
奇妙な笑みを浮かべて、アルマンは呟く。
「さっきみたいにしない。そっとだよ。かわいいミシェル……」
愛撫されていると気付いて、ミシェルは唖然とした。
なぜこんなことになったのか、相手がいったいどういうつもりなのかもわからない。
そのときふと、思い出したことがあった。
それは昨日の夜のことだった。
店の常連の、柄の悪い連中がアルマンをつかまえて、おまえは不能だ、一生嫁なぞもらえまい、と言ってからかったのである。
こういう時アルマンは決して言い返さないし、怒りもしない。
ただ小突きまわされるままになり、相手の気が済んだとみるや、そっと厨房に引っ込むのである。
彼が実際に不能なのかどうか、ミシェルは知らないし、興味もなかった。
しかし彼に対して一抹の同情のようなものを感じたのは確かだった。
さきほどからの奇妙な行動と、昨夜の出来事は無関係ではないような気がした。
ミシェルは横たわったまま、相手が自分の身体をなぞり、拒まれないとわかってしだいに強く手を押し付けてくるのを見守っていた。
薄いガーゼごしに、かたく分厚い手のひらを感じた。
その両手が、胴をすっぽりと押し包み、わき腹から腰骨にかけて、幾度となく上下する。
両手の親指はみぞおちから腹へとすべり、腿の内側を撫でては中心をかすめる。
ゆっくりと、あやしいざわめきが皮膚の内側を這いのぼってきた。
ミシェルは首をかしげて、自分の感覚をさぐった。
それは気持ちがいいようでもあり、不安な、不愉快なものをはらんでいるようでもあった。
アルマンの手は、いまや腰のあたりをしきりに撫でまわしていた。
ミシェルは下の方が硬く、熱くなるのを感じた。
蜂の子ほどの小さなものとはいえ、存在を主張し始めた突起はガーゼの上からでもはっきりわかるほどだった。
敏感になったそこを、巨大な手のひらが無造作に往復する。
ミシェルはもどかしい感覚に身をくねらせ、呼吸を乱して、呻き声をもらした。
アルマンの方も、自分に応えるようなミシェルの様子と、熱を帯びてきた肌を感じたに違いない。
ますます熱心に、押さえつけるようにして手を動かす。
ミシェルは身体中をもみしだかれ、次第に高まる淫らな衝動をもてあましてあえいだ。
抑えられない、と思った瞬間、ガーゼと、熱い手の下ではじけた。
濡れた感触があった。萎えたものの上から容赦なく、なおも機械的な動きで擦られて痛みをおぼえた。
「もうやめて!」
ミシェルが叫ぶと、アルマンはびくっと手を引っ込めた。
ミシェルはしばらく荒い息をつきながら、呆然と天井を見上げていた。
ミシェルは男の性的な機能について、話に聞いて知ってはいた。
ただ今の今まで、自分に関係のないことだと思っていたのだ。
彼はいくつになっても子供扱いされることが多く、そのため彼自身もどこかで自分を半人前のように感じていた。
人と違う己の肉体を忌まわしく思い、つとめて直視しないようにしていたふしもある。
しかし今の出来事で確信した。
当たり前の大きさの男たちと同じように、自分もあの部分に快楽を感じ、射精することができるのだ。
その発見がミシェルを驚かせた。
ぼくもみんなと同じなのだ、と彼は誇らしさとともに胸の中で叫んだ。
ああ、どうしてもっと早く自分で試してみなかったのだろう。
ぼくの身体には何の不備もないのだ。
そう、ぼくは……ぼくだって……。
ミシェルは自分を見つめているアルマンの眼をとらえると、最上級の、美しい笑顔を向けた。
「ありがとう」
アルマンの顔に、ゆっくりと、痴れたような笑みが広がった。
彼は手を叩いて笑った。
感謝された理由がわかったのかわからないのか、彼はミシェルの喜びを感じとり、一緒に祝ってくれたのだ。
ミシェルは微笑みながら指を唇に当てた。
「ないしょだよ。このことはぼくたちだけの秘密だからね」
しかし本心では、窓から身を乗り出して世界中に向かって叫びたかった。
ぼくは今あれしたよ! ねえぼくは今したんだよ! と。
「ないしょだね」
アルマンは頷き、自分も唇に指を当てた。
階下で、主人が自分を呼んでいるのが聞こえた。
ミシェルは飛び起きた。さめた湯の中でもう一度ざっと身体を流すと、大急ぎで服を着た。
そしてアルマンの肩に乗って階下に下り、ピアノの前に座ると、客のために元気よくメヌエットを弾いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 8