アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
トラ先生慄く⑤
-
梶本君の稽古についた数日後、登校するとすぐに墨人君が声をかけてきた。
「おはよう。がー谷。面倒だろ、あいつ。」
「墨人君、おはようっ。そうでもないよ。所作に隙がないから筋良いと思うし。やはり、武道と芸道はどちらにも通づるものなんだね。…ぼくにはそのセンスは残念ながらないけれど。」
ぼくは無駄のない動作で稽古を受ける梶本君の姿を思い出しながら、墨人君に初日の感想を伝えると
「ウム。…宮本武蔵のようにはいかないからな?」
「まったくね。」
墨人君はいつもの大人帯びた口角を上げる微笑をつくる。
大人だらけの世界で生活すると身に付く表情だと思う。少しタイプは違うけれど梶本君も、樂君や他にも同じ種類の表情を持っているクラスメイトは、皆、幼少期から大人が嗜む世界に属している。
「この学校は変なのばかりだけれど、あいつの性格の悪さは本人と他人の両方を巻き込むから質が悪い。」
手荷物を整理してから、制服のカフスボタンを外し、Yシャツの袖を捲り上げながら墨人君は口を曲げて溜め息をつく。
「ええ?そうなの!?」
「ああ。まぁ、流石にもう馴れたけどな。」
墨人君って面倒見の良い体質の典型だ。
「いずれにしても、ぼくは梶本君の多面性は嫌いじゃないよ。本人にも伝えたけど、自分の居心地の良いバージョンでいてくれって。」
音楽の趣味も結構合うんだ、とぼくは昨日帰り際に梶本君が貸してくれたCDのジャケットを墨人君に見せる。
「見て!懐かしいでしょ、THE MAD CAPSULE MARKETSだよ!?シッブいよねー!!最高にクールだよね!!そうそうっ、面白いロックバンド見つけたらしくて、今度一緒にライブに行こうって話になってさーーー。」
ぼくが音楽の話題に熱を持って話し始めると、墨人君は呆れた表情でぼくを見下ろす。
「つくづく凄まじい懐柔能力だな…。」
「ん?あっ、そうだ!!梶本君から聞いたんだけれどっ、なんか、ぼくいわれの無い噂があるみたいでーーーあれっ?」
梶本君情報を思い出して確認したかったのに、墨人君はとっくに沿意君たちと合流して教室の扉から出ていくところだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
82 / 87