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トラ先生慄く⑩
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「軽い手合わせだけれど、本気で打ってきてね。」
「ふん、当たり前だろ。」
ぼくが念を押すと、梶本君は手加減無用といわんばかりの物言いをする。
「それじゃあ、始めるよ。」
ぼくたちはお互いに一礼をして静かに構える。
梶本君がすっと間合いを詰めて踏み込み、渾身で打ち込んでくるのを竹刀の軌道に沿ってぼくは払い、力の抜けていく方向に合わせて切り返す。
その流れにのせて、決めるための一撃を躊躇事なく打つ。
ざっと目算して壁までニメートル弱なので問題はないであろう。
相手がかけた力を使って威力の増した胴打ちを正確に叩き込み、ぼくは笑顔で梶本君を数メートル吹き飛ばす。
まともにくらい一瞬で壁に背面から激突し崩れ落ちてあ然としている梶本君に歩み寄り、にやりと手を差し伸べる。
「梶本君はぼくのことを人たらしと言っていたけれど、その誤解を解こうとおもってね。」
「…テメ、とんでもない猫かぶりの八方美人野郎だな。」
「人の恋人にちょっかい出すからだよ。」
「それで、負けず嫌いの梶本君をわざと煽って京都に通わせるように仕向けたの!?」
「はい。」
トラ先生から梶本君を遠ざける為にぼくが取った行動を聞いて、トラ先生は少々驚かれているようです。
ガラス製の紅茶茶碗を手にしたまま中のカモミールティーを飲むのも忘れて、ポカンとぼくを見つめられる。
ぼくには双子の叔父がいて、兄で長男の良賀谷 不動(りょうがたに ふどう)が道場の跡を取り、弟の太極(たいきょく)は家を出て殺陣師として結構な活躍をしている。
京都の撮影所にしょっちゅう出入りしているし、役者さんの指導ももちろん付くので梶本君を紹介したのだ。
「あの性格で太極君に会ってしまったら…一瞬で堕ちるわね。」
「ええ。そうなってもらうために引き合わせたんですから、結果がでてなによりです。」
叔父の太極は知り合いには皆から変わり者呼ばわりされ、変人で通っている。トラ先生のことがなかったらストイックな梶本君を会わせはしなかったけれど。
「お陰で煩わしい問題が解決してすっきりしました。」
ぼくは心の底から安堵と清々しさを感じ、トラ先生に満面の笑みを向ける。
「…るうちゃんって、怖ろしい子!」
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