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クリスにお願いされ続けた1日が終わった。
他人にあまり興味の無い俺でも、唯一素直に意見を聞ける友人の無謀なお願いに頭が痛くなる。
帰りの車の中、すぐ隣に座る深月は俺と1度も目を合わせることも無く流れる景色を見詰めていた。
栗山がもうすぐ『教育』が始まると言っていた。
その教育内容は詳しくは知らないが、兄の『大切な人』が前に「アレは精神的にヤバい」とボヤいていた事を思い出す。
だから栗山も深月の御機嫌を取れと言うんだろうけど・・・
この状況をどうしたらいいのか見当もつかないでいた。
ここ何日も続く沈黙の中、車は静かにマンション前で止まる。
車を降りて後から降りてきた深月に視線を送ると、俺を視界にも入れずにエントランスを抜けエレベーター前まで行ってしまった。
小さく溜め息を吐いて後を追う。
俺が到着したと同時にエレベーターのドアが開き深月は迷う事無く箱に乗り込む。
それを俺は立ち止まって見詰めてた。
一向に乗り込まない俺を不審に思ったのか、ここ数日で久し振りに深月が俺を見る。
黒く吸い込まれそうな大きな瞳が俺を捉えて少しだけ揺れた。
ドアがゆっくり閉じかけた瞬間、俺はドアの間に手を入れ閉まるのを阻止する。
そしてドアに伸ばした手をそのまま箱の中に入れると、深月の左腕を掴んで引き寄せた。
突然の行動に深月の瞳が開かれる。
体勢を崩した深月を抱き留めると同時にエレベーターのドアが閉まった。
エレベーター前のエントランスには右腕で深月の腰を抱いて立つ俺の姿があった。
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