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光は見つからない
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その涙が現実の世界で自分が流している涙だと気づくまでにだいぶ時間がかかった。
ぼやける視界。真っ暗な部屋。
目を擦りながらまだ覚醒しない頭をやっとのことで動かす。
…あのまま寝たのか、俺……
時計を見ると短針が指している数字は「1」だった。
ベッドの軋む音と心についた消えることのない傷が不思議と似たような調律を奏でているように感じられ、悲しみと苦しみが一気に押し寄せる。
…久しぶりに見た。あんな夢。
最近は見ていなかったのに。だって、自分を偽って仮面をつけて、一人でいる時以外は「春乃」でいることをやめたんだからさ。
過去を思い出すことがあっても、それは。
「副会長でいれば、なかったことにできる筈だって、な」
なんて滑稽な道化なんだろう。
分かってるよ、全部。こんなことしたって彼は帰ってこないこと。何も報われないだろうってことも。
分かっているからこそ、辛いんだ。
目を背けてきた事実がもうすぐそこまで迫っていることから、俺はまだ目を背けることしかできない。
フラフラとした足取りで洗面所に向かうと、鏡に映る自分と目が合った。
藍色の瞳が、何か言いたげに揺れている。俺はそれを無視して、意味もなく小さな笑みを口元に浮かべた。
まだ明かりは見つからない。
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