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会長視点。
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「……ありがとうございます」
震える手でハンカチを手に取った彼は、憂いを帯びた顔つきを浮かべながら丁寧に濡れてしまった体を拭き始める。
静かに流れていく時が、「本当に時間は存在しているのだろうか?」という疑問さえも浮かび上がらせる。
それ程に、あまりにも静寂に包まれていて、息をするのも忘れてしまう空間に私はいた。
彼が髪を拭いていく度に、見慣れた姿ではない“彼”が姿を現す。
能ある鷹は爪を隠す、と言うけれどまさしくそれを目にしているような。
この世のものとは思えない程に艶やかな姿が現れたことが、それを物語っていた。
白いハンカチが茶色に染まりゆく頃には、彼は最早別人だった。
艶のある漆黒の髪に、物悲しそうな表情を浮かべる彼は「…会長には、ばれたくなかったんですけど」と言葉を漏らす。
脳裏の中の記憶がもしかして、という一筋の疑問を私に語りかける。
以前に理事長室で目にした、あの写真。
特待生入学の書類に張り付けられていた、たった一枚の小さな写真を一瞬だけ目にしてしまった。
理事長は私がそれに釘付けになっているのを見るなり、焦ったようにその書類を隠してしまい、私もそのことに関して触れるのを躊躇ってしまった。
夜空に星屑が散りばめられたかのような瞳。
何よりも、彼の美しさに目を奪われた。
中性的、と表現するのが正しいのかは分からないけれど、とにかく彼の美しさは浮き立っていた。
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