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ー序章ー
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俺には唯一の家族である弟がいた
俺は弟の事が大好きだったから甘い兄だった
弟は高校3年、普通の健全な男子なら女の子に興味があってもおかしくはないのに兄である俺にべったりでこのままで大丈夫なのかと内心不安でもあった
「おにいちゃん、相談があるんだ」
「また?と言うか彰の相談はいつもくだらないんだよね」
「まじめな相談!聞いてよ、他に相談できる人いないし」
「わかったよ、でもこれを終わらせてからね」
「手伝う!」
「サンキュー」
弟の彰の相談は笑ってしまうほど可愛いものだ
食器拭きを終わらせソファーに押し掛けた
「それで?今度は何?どのゲームを買おうかとか?それともお小遣い?」
「違うし!」
「はいはい」
「うん、実はね・・・好きな人がいるんだ」
「へぇ、初耳なんだけど」
好きな人・・・
男の子なら好きな子の一人や二人いてもおかしくはない
だけど、何だろう・・・すごく寂しい
ホント、俺の方が彰に依存してるみたいだな
「相談できるのはおにいちゃんしかいなくてさ・・・」
「相談?」
「うん、どうしたらその人が振り向くかなって」
「ちなみにその好きな人って?」
「うん、ゲームで知り合った人ですごくいい人」
「女?」
「えっと・・・」
「男なんだ」
「あはっ」
「ったく!似なくていいところまで似るとはね」
「だって女って面倒だし、護るより護られたいから」
「気持ちはわかるけどね」
俺とは5つ違いの彰
両親は2年前、事故に巻き込まれてあっという間にこの世を去った
幸い、両親の保険金もあり弟と二人で何とか生活出来ていた
こいつ・・・似なくてもいいのに俺と同じで男しか愛せないらしい
最近はネットゲームに夢中になり、そこで知り合った人と毎日遊んでいたのは知っていたけど
「どうしたらいいかな~、おにいちゃんモテるしさ教えて?」
「は?」
「そうじゃん!いつもイケメンの彼氏いるしさ」
「はぁ・・・」
「だけどすぐ別れるんだもん、もしかして飽き性?」
「そうじゃないけど、求めている人が他にいるような気がするだけ」
「でたよ!どこにいるんだし」
「どこかだよ、わかれば今頃ここにはいないしね」
「もう!いないとかやめてよ」
「冗談だよ」
「ねぇ~~!どうしたらいい?」
本気・・・なのか?
目を見ればわかる
でも、無視も出来ないしな
「通話とかしてるの?」
「してる」
「じゃ、たまには引くのも手かもね~」
「引くか・・・やってみるよ」
「うん、頑張れ」
「うん」
まぁ、ゲームだし会う事もないだろう
恋愛ごっこみたいなものなのか?
待てよ・・・
「相手はお前が男だと言う事は?」
「知ってる通話してるし」
「そっ、確かに」
「うん」
相手も男が好きなのか?
よくわからないが・・・こんな顔の彰を見たのは初めてで、なんとなく寂しくもあった
「もしかして、彰にギターをくれた人?」
「うんうん、あれは驚いたよね~」
「だね」
「おにいちゃんの仕事を見てきたから将来はギタリストになりないな~なんてね」
「ばーか!甘いね」
少し癖のある髪の頭を軽く叩いて微笑んだ
「あははっ」
彰は、その人に高価なギターをもらっていた
正直、顔も知らない奴の為にそんなプレゼントを贈る奴がいることに驚いた
高価なものだし、受け取ってもいい物なのか悩んだが、嬉しそうな彰を見ていたら何も言えなくなってしまった
そんな会話をしていたのが半年前、俺も軽く受け止めていた
彰が冗談でも俺と同じ道を目指してくれているのかと思うと嬉しくもあった
実際、そんなに甘い道ではないけれどね
そして
「おにいちゃん!聞いて」
「今度は何?」
「あの作戦いい感じ」
「ああ・・・あれね」
最初は、意味がわからないまま話を合わせていた
でも、漸く思い出した
「うん、でね」
「うん」
「ついに告白されたんだ」
「えっ?」
「でもね、向こうは俺が18になるまで会わないって」
「へぇ・・・意外としっかりしているんだね、お前はまだ未成年だし」
「あの人は27だし社会人、ちゃんと考えてくれているんだね」
「そうだね、その人の仕事は何?」
「んとね、お医者さん」
「それはまた」
「ふふっ」
今どきにしては珍しい奴だな
真面目なのか?
普通ならすぐ会いたいといいそうだが・・・
と言うか、医者?
そんな奴もゲームをするんだな
「早く会いたいな~」
「はぁ・・・」
そんな会話をしたのが二か月前
今でも鮮明に覚えている
彰の嬉しそうな顔
まるで少女のように頬を染めていた
「美味しそう~」
「18歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
「これ、プレゼント」
「ありがとう!開けてもいい?」
「勿論」
彰が欲しがっていたネックレス
半年前からオーダーした一点物
「うわっ!嬉しい!!これすごく欲しかったんだ、ありがとう」
「気に入った?」
「勿論!オーダーメイドだし高かったでしょ?」
「俺を舐めないでくれる?」
「あはっ、だよね~!有名な兄を持って超幸せです!」
「それは褒めすぎ」
「でも嬉しいな~、見て!光の加減で模様が変わるんだ」
「ホントだ・・・綺麗だね」
「うんうん、ネックレスのなかの銀河だね」
二人でしばらくネックレスを眺めていた
「つけてあげる」
「ありがとう」
彰の細い首にそっとネックレスをつけた
「似合う?」
「とてもよく似合ってるよ、来年もまたお祝いしようね」
「うんうん、約束ね」
「約束」
今年も二人で誕生日を祝った
小さなケーキに灯るろうそくの炎
来年もその炎を吹き消すはずだった
「じゃ、行ってきます」
「ホントに大丈夫なの?」
「うんうん、駅まで迎えに来てくれるって」
「そう」
「あっ、新幹線に乗り遅れちゃう!じゃ行ってきます、お土産買ってくるからね」
「気をつけてね、連絡はちゃんといれるんだよ」
「はーい!」
待ちに待った日、彰は嬉しそうに家を出て行った
俺は寂しいけど仕方がない
彰が幸せならそれでいい
角を曲がるとき、笑顔で手を振っていた彰の笑顔
心配そうな俺
あの時、やはり顔も知らない奴に会いに行くなと無理矢理止めるべきだった
だけど、嬉しそうな彰の顔を見るとその言葉を飲み込むしかなかった
そして帰る日になっても彰からの連絡はない
心配で何度も電話をかけてみたが電源が切れていた
「おかしいな・・・」
新幹線の中なのか?
それとも地下鉄?
どちらにせよ、もう帰ってきてもおかしくない時刻
その日は眠れないまま夜を明かし、次の日を迎えた
電話は相変わらずつながらない
もしかしてそのまま同棲するつもりじゃないだろうな?
相手は確か、大阪だったかな
おいおい、ここは東京で大阪は簡単に遊びに行ける距離じゃないぞ
困ったやつだ・・・これからは少し厳しくした方がよさそうだな
今までが甘すぎたんだ
帰ってきたら心を鬼にして怒らなければ
そして二日が過ぎた
俺は心配で仕事どころじゃなかった
連絡はつかないし、本当にどうしたんだ?
男だしそこまで心配する事もないんだろうけど
「電話だ、家電だし充電が切れてたのかな?どちらにしても怒る必要はありそう」
鳴り響く電話、時計の音
いつも弟が座っていた場所
「はい、もしもし・・・えっ?!」
電話は警察からだった
俺は受話器を握りしめたまま倒れそうになった
(もしもし、もしもし)
「すみません、今すぐ向かいます」
警察の話が信じられなかった
だってそうだろ?
数日前まで彰は元気だった
そして幸せそうだったはずなのに
俺は大阪に向かった
警察署についたのは深夜
名前を告げると、すぐに刑事がやって来た
「お兄さんですか?」
「はい、弟は?」
「こちらへ」
「はい」
向かったのは冷たい霊安室
どうしてこんな所に連れてこられたのかもわからないまま、ドアが開かれた
「今朝早く公園で発見されました・・・弟さんで間違いないですね?」
白いシーツをめくりそっと顔を覗き込んだ瞬間、抑えていた感情が一気にあふれ出した
「・・・・・・嘘・・・だろ、おい!いいから目を覚ませ!」
無機質なベッドの上に横たわる冷たい弟
体中包帯が巻かれていた
「どうしてこんなことにっ!」
「散歩中の男性が第一発見者です」
「誰が弟を!」
「それは今捜索中です」
「ふざけんなよっ!お前達の仕事だろ?」
「落ち着いて下さい」
「どうしてっ!誰が弟を・・・ううっ、うわぁーーーー!!」
もう目の前が真っ暗だった
俺が無理矢理止めていればこんな事には
今更後悔しても遅い
その後、いろいろと聞かれたが、俺が知っているのはゲームで知り合ったと言う事だけ
警察も半ば呆れ顔で話を聞いていた
「ゲームですか・・・顔も知らない相手ねぇ」
「・・・・・・・・」
「弟さんのIDとかわかりますか?」
「家に帰れば・・・あっ」
「どうされましたか?」
「確か弟のIDは俺の誕生日だと聞いたような」
「ゲームの名前は?」
「確か・・・」
ゲームの名前はわかっていた
警察はすぐにそのゲームを調べていた
「そうそう、これは遺品です」
「・・・・・・・・」
「お持ち帰りいただいて結構です、一応血液は洗い流したのですが」
「これで結構です」
渡されたのは真っ赤なネックレス
血で染められたネックレスの中に見えるのは何?
あの時二人で見つめていた綺麗な銀河ではないはず
そう・・・その中には冷たく笑う悪魔がいた
俺はその悪魔を自分の首に回した
こびりついた血を洗い流してもネックレスは赤く染まったまま
真っ赤に染まった銀河のネックレス
唯一の形見になってしまった悲しいプレゼント
その後、警察署で数時間待たされ漸く帰る事が出来た
俺は小さな箱に入った弟と住み慣れた部屋に戻って来たけど弟はもうこの世にはいないと言う事実を受け入れるには時間がかかりそうだ
「おかえり・・・てか、お土産はどうしたの?」
その場に座り込み、小さな箱を抱えて泣いた
最後に見た笑顔が鮮明によみがえる
誰が彰をこんな目に・・・
「怖かったよね・・・痛かったよね・・・ごめん、何もしてやれなくてごめん」
検死の結果、弟の体は鋭いメスで何か所も傷を付けられ爪は剥がされていた
まるで拷問のような傷だと聞いた時は倒れそうになった
怖かっただろう、辛かっただろう
彰の入った箱を抱えたまま数日が過ぎた頃、警察から連絡が入った
犯人が捕まったとの連絡
犯人は・・・・・外科医
あの日弟と会っていた男だった
「そんな・・・・・」
目の前が真っ暗になった
立っているのも必死で、呼吸が止まりそうだった
あの時俺が止めていれば・・・
違う!相談になんて乗らなければこんな事には
後悔の渦に巻き込まれそうになりながら壁を何度も拳で殴りつけた
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