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雪の朝は早かった。
ふと持ち上がった意識の中温かい腕の中に居る事が分かり心臓が跳ねた。
眠りについた時よりも強く抱かれ押し付けられた胸板。
息を吸えば啓一の香りが鼻を擽った。
すりすりと額を擦り付けきゅんと疼く後孔に息を吐いた。
少し緩んだ腕にそっと身体を起こすと僅かに違和感があった。
腰の軋みに筋肉の張り。
こんな事に幸せを感じてしまうなんて。
末期だな、なんて呟きながら用意した朝食は随分と気合の入ったものになってしまった。
朝からこんなにも食べて貰えるだろうか、と少し心配になりながらも啓一を起こそうと寝室へ向かった。
未だ眠っている啓一の腕がシーツを這う。
雪を探しているのだろうか、くすくすと笑う雪が声を掛けた。
「おはようございます、啓一さん。」
ふわふわのパーマが掛かった髪を撫で付けると、んんぅと気の抜ける声が発せられた。
薄く開かれた瞳はとろんとし、寝起きは可愛いなと考えた所でいきなり抱き込まれた。
改めておはようございます、と声を掛けると更にぎゅう、と締め付けられる。
「ご飯ですよ、起きれますか?」
甘える鼻先にちゅっと口付けると覚醒したのか瞳がすぅ、と細められた。
「おはよ、雪ぃ。
なんか色っぽいね…。」
僅かに舌足らずな声が投げられぐりぐりと頭が擦り付けられた。
ふあ、と大きな欠伸をした啓一が眼鏡を掛けると部屋着にしている着流しを手渡した。
すっかり目が覚めた啓一に甘えん坊は朝だけかと勿体なく思っていた雪に伸ばされる手。
「着流し、似合ってる。
凄いかっこいいよ。」
口の端を引き上げた啓一が唐突に寄越した賞賛に小さくありがとうと答えた雪は逃げる様にキッチンへと姿を消した。
その愛らしい様に寝起きからほくほくとしている啓一がすん、と鼻を鳴らした。
嗅いだ香りは食欲を呼び起こし腹を騒がせた。
顔を洗いさっぱりとした表情でダイニングに顔を出した啓一が見たのは少し恥ずかしそうに顔を伏せ食卓に用意された朝食。
和食が得意だと確か言っていた筈だ。
玉子焼きに切り干し大根、細く切ったイカのみぞれ掛けに湯気の立つ味噌汁。
ほかほかのご飯まできちんと炊きたてだ。
「少し作りすぎちゃいました…?」
「いや、大丈夫だよ。
凄い美味しそうでびっくりした。」
心配を顔に浮かべ啓一を窺う雪ににこりと笑みを向ける。
温かいお茶を湯呑に注いだ雪が食卓に腰を下ろす。
「温かい内に、どうぞ。」
「うん、いただきます。」
にこにこと上機嫌に食事を開始した啓一を不安げな視線が追っていた。
玉子焼きに伸ばされた手にいつの間にか手は拳に握られていた。
「うわ、美味しい…!」
溢された言葉にやっと息をすることを忘れていたのに気が付いた。
「雪がお嫁さんで本当によかった。
美味しいよ、ありがとうね。」
喜ぶ顔を見て安堵した雪はようやく自分の箸を動かした。
朝から結構な量を作った筈だったがぺろりと平らげた啓一に雪はぱんぱんの腹を擦っていた。
片付けはやると言って聞かない啓一に任せ食後のお茶をゆっくりと用意した。
リビングのソファに並んで座りのんびりと時間を過ごす。
肩に回された腕に引き寄せられ力を抜く。
散々雪の料理を褒めちぎる啓一と話した中で啓一もそれなりに料理をしていた事が分かった。
聞けばお付きだった林田さんが所謂家庭科的な先生だったと。
あの屈強そうな見た目に反して凄い家庭的で面倒見がいいらしい。
組の本部に住んでいた時はよく一緒に作った事もあったそうだ。
にこにこと笑いながら話してくれる啓一が閃いた様に声を上げた。
「そうだ、今度一緒に料理しようよ。
俺和食は難しいから雪に教えてほしいなぁ。」
「ええ、いいですよ。
でも俺の仕事取らないでくださいよ?」
「うん、こんな出来た奥さんで嬉しいよ。
でも無理はしないで。
頼れる人は俺以外にも沢山居るから、ね?」
こくり、深く頷いた頭をよしよしと撫でられた。
優しい眼差しが雪を捕えた。
「あとね、雪は指輪とネックレスどっちがいい?」
「え、俺にですか?」
ああ、勿論どっちもでもいいよ、なんて軽く返され瞠目する。
にこりと微笑みながら頬を撫で上げられる。
「雪が俺のお嫁さんになってくれた記念!
どっちがいい?」
じゃあ、じゃあ、と小さく繰り返した雪が選んだのは指輪だった。
頬を染めもごもごと伝えてくる雪の左手を取り薬指に口付けた。
「お揃い、はだめですか…?」
眉尻を下げ小さく問う雪へそのつもりだったと返すとあどけなく笑顔が咲いた。
甘い雰囲気の中、二人で家事をしのんびりと過ごす。
幸せすぎて怖いな、とぼんやりと考える雪へ啓一の力強い手が髪を梳く。
何度も口付けを交わし他愛ない話を紡いでいった。
雪と居る為に一日オフにしたと宣言した啓一は雪から手を離す事無くべったりとくっついていた。
雪は今後、一人での外出は許可されていない。
この部屋を出る時はいかなる時も組の者と同行する決まりだ。
そんな傍から見れば異質な鳥籠も、雪にすれば幸せそのものだった。
簡単に済ませた昼食もにこにこと笑みを浮かべ平らげた啓一。
少し食べ過ぎた、なんて溢しながら片付けてくれた。
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