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満足げにソファに腰を下ろした雪が時計を見上げた。
まだ昼前だ。
今朝方別れたばかりの啓一が返って来るにはまだまだ待つほかないようだった。
そんな事で気がしょげている自分に思わず笑ってしまった。
自嘲的な笑みが口元に浮かぶ。
あんなにも愛してくれているというのに。
まだ求めてしまうのか。
ぼんやりと考え込んでいた雪の携帯が震えた。
ほんの僅か、期待した相手ではなかった。
「はい、どうかなさいましたか?」
「奥様、お暇ではありませんか?
もし宜しければお昼でもご一緒にどうかと思いまして。」
林田の低く落ち着いた声がスピーカーから聞こえてくる。
この部屋の真下に住んでいる林田は雪付きの護衛に近い立場となる。
「といっても私の拙い手料理なんですけど、どうされますか?」
「啓一さんが林田さんの料理は凄いって褒めてましたよ。
是非ご一緒したいです。」
出来上がりを持ってくると話す林田に無理を言って部屋で作ってもらう事にした。
啓一が嬉しそうに語った林田の料理を間近で見て見たかったのだ。
ついでに買い出しも、と頼むと快く了承してくれた。
「ご準備はどれくらいで出来ますか?」
「着替えるだけなので15分もあれば出られますよ。」
「でしたらその頃伺いますので。」
通話の切れた携帯を手放し着替えに向かう。
雪に与えられた衣裳部屋に移動し服を手に取った。
幼少の頃から着慣れた和装も外では大いに目立ってしまう事を雪は知っていた。
しゅるしゅると音を立て解いた帯を丁寧に畳み、ざっくりと胸元の開いた黒色のニットに腕を通す。
細身のスウェードパンツを合わせ、啓一が贈ってくれた銀色のストールで花弁を隠した。
携帯と鍵、財布を鞄に詰め部屋を出た。
リビングで待とうと足を進めた瞬間、インターフォンが鳴った。
キッチンの横にあるモニターで来訪者を確認し玄関を開けた。
「行きましょうか。」
上げられた顔はやはり無表情で。
この人の表情が動くのは一体どんな時なのだろう。
啓一が帰ってきたら聞いてみようとぼんやりと考えていた。
連れて行かれるのは車で15分程の距離にあるショッピングモール。
艶々とした黒塗りの車の中、他愛ない話を交わした。
10分も走ると海沿いのフェリーポートが見えてきた。
「ここからフェリーに乗り換えて学校に通っていただく様になります。」
「ここから…。」
という事はこの先に今啓一が居るのだろう。
雪が4月から通う海石榴高校は人工島に建てた霧生組経営の私立高校である。
ヤクザが経営を任されているといえば聞こえは悪いがそこは霧生組の治安管理やビジネスの功績によってかなりの人気高校となっている。
中には大企業の御曹司なども進学して来ており中々有名だった。
三代前の組長が友人から貰った学校なんだと親父に教わったのを思い出していた。
そして啓一はそこの理事長として現在仕事をしていた。
手元に置いて貰える。
そう考えただけで雪は悦び戦慄いてしまう。
いっその事首輪でもして連れ歩いてくれれば自分は啓一のモノなんだと主張していられるのに。
なんて、やはり求め過ぎだろうか。
首輪に繋がった鎖を携え雪に微笑む啓一を想像しほんのりと頬を染める雪に林田が到着を告げた。
慣れているのだろう林田が迷いなく食品売り場へと案内してくれた。
手際良くかごに入れられていく材料。
林田の提案でラザニアの作り方を教えてくれるそうだ。
「ラザニアは若の好物なんですよ。
ラグーソースも色々応用が利きますし、覚えてしまえば結構便利ですよ。」
「そうなんですか?」
「ええ、そんなに手が込んでいるわけでもありませんし難しくないですよ。」
トマトピューレの缶を手に取り落ち着かせる様に話す林田に雪はしきりに頷いていた。
「今まで林田さんが啓一さんのご飯作られてたんですよね。
俺よりあのキッチン知ってるのかぁ…。」
いかにもヤの付く職業にしか見えない林田と線の細い美形が楽しげに、片方は至っては無表情だがそれでも楽しげに買い物する姿は一様に目立っていた。
パスタ売り場でラザニア用のパスタを教えて貰い、あとは夕飯の買い出しとなった。
「啓一さんって酒粕とか大丈夫ですか?」
「ええ、食べられる筈ですよ。」
「よかった、今日は寒いから粕汁にしようかと思ってたんです。」
酒粕に鮭の切り身、筍と、テンポよくかごに入れていく。
林田が筍ご飯も好物だと教えてくれ今日の夕飯は決定した。
お料理男子達の買い物は啓一が持たせてくれた黒色のカードで無事購入できた。
しかし、高校生にブラックカードは少し気が重たい。
そう小さく漏らすと心配性ですから、と林田の笑い混じりの声が運転席から届いた。
「あの方は少々過保護な所もありますからね。
私にも奥様の会計用に持たされましたが、色聞きたいですか?」
「……、やめておきます。」
「ええ、その方が宜しいかと。」
物欲自体そう強くない雪にとっては大層宝の持ち腐れになってしまいそうなカードが2枚。
少々過保護と林田は形容したが少々で済む筈が無いと告げた本人は心の内で思っていた。
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