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帰宅早々スーツの上着を脱いだ林田がシャツの袖を捲った。
予備の黒いエプロンを渡し、キッチンに並んでいた。
林田の動きはとても丁寧で教え方も分かり易かった。
「本当はラグーソースって一日寝かせるんです。
なので今日のは練習として明日の夜にでも若に作って差し上げると丁度いいと思いますよ。」
みじん切りにした玉ねぎを炒めトマトピューレを加えていく。
「ゆっくり、そうですね。
1時間半程煮込まなきゃいけないので、その間に付け合せの準備しましょう。」
手際良く湯剥きしたトマトを串切りにして冷蔵庫へ。
ドレッシングを合わせ、アスパラとエリンギをソテー用に切っていく。
ミニトマトを浮かべ白ワインを垂らしたコンソメスープは火を止め蓋をして。
普段から調理に慣れている二人で進めた準備はあっという間に終わってしまった。
「さすがに時間余りましたね。
煮込んでいる間お茶でもいかがですか?」
「そうですね、少し休みましょうか。」
弱火にしたラグーソースを一度掻き混ぜダイニングで一休み。
林田がアッサムのミルクティーを淹れてくれゆっくりと味わった。
「お暇な時はいつでもお呼びくださいね。
近場に居ますし、学校が始まるまで籠りきりというのも良くないでしょう。」
「ご心配ありがとうございます。
でも俺、今が本当に幸せで…。
ここに居られるだけで嬉しいんです。」
ふにゃり、笑んだ表情は年相応のものだった。
「貴方にそこまで想われて若は幸せ者ですね。
ですが、奥様。
貴方は妻として、若と対等な立場におられます。
貴方の事を一番に考え想っている人が居る。
どうか迷惑だなんて考えず、甘えてやってください。」
きっと若はそれが嬉しい筈ですから。
そう語る林田の瞳は優しさに溢れていた。
部屋に囲われる雪が窮屈ではない様に、互いに幸せであるように。
「ありがとう、ございます…。」
こくり、小さく上下した頭に満足した様に林田が徐に立ち上がった。
「では、パスタを下茹でしましょう。
型にパスタを並べて貰えますか?」
「え、鍋で茹でるんじゃないんですか?」
瞠目した雪が言われた通り型にパスタを並べ湯を張った。
真剣な表情で林田の教えをしっかりと覚えようとする雪に手を貸しながらオーブンの火が灯された。
ベシャメルソースを焦がさない様ゆっくりと掻き混ぜながらバターと小麦粉を加えていく。
ダマにならない様注意しとろみが付くまで弱火でじっくりと。
ラグーソースとバターを型に引きパスタを重ねる。
沢山のせてはならないと教わったベシャメルソースを塗りたくりまたラグーソースを引いていく。
チーズをたっぷりと乗せ何層も層を重ねた上に粉チーズを降りかけオーブンで20分。
焼き上がりまでに準備していた付け合せを完成させていった。
香りが立ちタイマーが鳴る頃には豪華な昼食がテーブルいっぱいに並んでいた。
林田と共に作った料理はどれも美味しかった。
にこにこと平らげる雪にお粗末様です、と言葉を返しお茶が差し出された。
「本当に美味しかったです。
明日早速啓一さんに作ってみますね。」
和気藹々と楽しんだ時間はあっという間に過ぎてしまっていた。
少し遅めの昼食だったとはいえまだまだ日も高い。
何をしようかと背を伸ばし、ふと身体を動かしていない事に気が付いた。
「ここに来てから稽古してないなぁ…。」
誰が聞いているわけでもない独り言を呟き思い立った雪が立ち上がった。
部屋着に着替え、空いている部屋に足を進める。
がらんとした室内で軽く柔軟をし始めた。
深く深く息を吐く。
すう、と水が流れる様な動きで始まったのは舞。
舞武道に類される武術の一種だ。
立花の家ではこれを基本に扇子を持ち踊りとしても披露していたが本来は掌底を貫手で相手を制するものである。
一の舞、二の舞、三の舞。
全て通して第八の舞までが一曲とされる。
動きの一つ一つを確認する様に雪は袖を振るった。
しん、と冷えた空気の中一人舞い終えた雪はしっとりと汗ばんでいた。
始まりと同じ様に深く息を吐く。
暇潰しには良い時間が過ごせたかと、浴室に向かいさっとシャワーを浴びた。
身体を動かしすっきりとした頭に夕飯の支度を考える。
炊き込みご飯さえ仕込んでしまえばあとは然程手間のかかるものはない。
すっかり主婦の動きに慣れ始めた雪の目は美味しいと喜ぶ旦那様を思い笑みの形になっていた。
炊飯器をセットし一息吐こうとキッチンを出た所で玄関からがちゃりと音が響いてきた。
直ぐ様啓一の声が届く。
「雪―!
ただいまー!」
小走りで玄関まで向かいにこやかに帰宅した啓一を出迎えた。
「おかえりなさい。
予定より早かったですね。」
今朝聞いた帰宅予定時間より一時間は早く帰宅した啓一に疑問が浮かぶが抱き締めてきた温もりにずるずると縋ってしまう。
柔らかな笑みを浮かべ雪をしっかりと抱き締めた啓一は静かに口付けをした。
軽く唇を啄まれ何度も何度も口付けが繰り返される。
ちゅ、ちゅ、と触れた部分がじんわりと温かくなっていた。
啓一の首に雪の腕が絡まったのを合図に舌が深く差し込まれた。
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