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裏から啓一に声が掛かる。
振り返った先を見て雪は瞠目した。
ぱつんぱつんに張り上がった筋肉がTシャツの上からでも見て取れる。
「おお、ただいま。
雪、こいつは幹部の斉藤だ。
基本ここの道場の管理をしてる。」
「こんにちは。
雪と申します。」
パンプアップした筋肉に釘づけだった雪がぺこりと頭を下げる。
「ご丁寧に、ありがとうございます。
斉藤と申します。」
「斉藤、今日これ食ったら雪が道場行くから。
よろしくな。」
会釈した雪に対しぺこぺこと頭を下げる斉藤はとても腰が低いのだろう。
啓一が雪を頼むと告げた途端、大袈裟なほどに畏まられてしまった。
にこにこと笑顔を浮かべ宜しくと告げる雪に斉藤は引き攣った笑みを返した。
皆で食べた料理は素朴で温かい味だった。
用意された食事をぺろりと平らげ徐々に持ち場に戻っていく構成員達を見送った。
林田が淹れた温かなお茶を啜った。
「啓一の我儘に疲れてないか?」
ふと口を開いた親父の一言に笑ってしまった。
育ての親とも言える親父からすれば啓一がいくら大きくなろうとも子どものままなのだろう。
「はい、寧ろ俺の我儘に疲れていないか心配です。」
眉尻を下げ返した言葉は豪快な笑い声で返された。
「もう!
雪の我儘とか可愛いんだからいくらでも言っていいんだよ!」
「だそうだぞ、雪。
甘えてやるのも啓一の為だ。
もしこいつの我儘に我慢ならん時は俺でも林田でも頼れよ。」
いつだってシメてやっから、なんて物騒な言葉もわしわしと頭を撫でつつ言われてしまうと温かく感じてしまう。
ふふ、と笑みを溢しながらこくりと頷いた。
「ありがとうございます。
もしそんな事があればお願いしますね。」
和やかな戯れに心が和らいでいく。
さて、と立ち上がった啓一が雪の頭に手を乗せた。
「じゃあ俺らは仕事の話してくるから。
道場行ってきな。」
「お、雪道場行くのか?
だったら扱いてやってくれ。
最近はこいつも早々顔を出さんから腑抜けて来ててなぁ。」
眉間に皺を寄せる親父に啓一が苦い顔する。
「いやいやいやいや、雪に扱きなんてやらせたら全員潰れちゃいますって。」
「たまにはいいだろう。
林田、そういう事だ。
頼んだぞ。」
雪を案内するべく控えていた林田は恭しく頭を下げた。
しかし林田の頭には疑問が浮かぶ。
まさかこの細腕でそんなにも、若ですら他の構成員を心配する程に武力に秀でているのだろうか。
立花の家の事は調べていた。
性技に富んだ男娼一族、だとそう認識していた。
はるか昔は武力も備えた花嫁だった、と過去形として林田は認識してしまっていた。
だん、と強かに床が音を鳴らす。
組み合っていた筈の構成員はぽかんとした表情で床に転がされていた。
「軸が安定してませんね、どうしますか?
続けられるならどうぞ。」
にこやかに美しい顔が微笑んでいた。
案内された道場で乱取りを始め、開始一人目でその場の人間が全員言葉を無くしていた。
向かっていった筈の構成員は雪よりも随分とがっちりとした体躯だった。
その身体が軽々しく宙を舞い、床に叩き付けられたのだ。
ゆるりと笑む雪の動きをきちんと見えた者はそう居ないのだろう。
述べ16人居た構成員達は次々に沈められていった。
捕えようと伸ばした腕を絡め投げ、脚が投げられれば背後に回り蹴り飛ばされる。
「俺の勇姿、啓一さんに報告してくださいね!」
始まる前、楽しげにそう話していた雪を思い出し携帯を取り出した。
残るは道場の主、斉藤のみ。
「お手合わせ願えますか?」
「…お手柔らかに、お願いします。」
冷や汗を垂らす斉藤に漸く雪の表情が動いた。
「そんなに緊張なさらないでください。」
苦笑する雪に大きな身体を縮こまらせた斉藤がきつく閉じた瞼を力強く開いた。
す、と上がる手に合図を指示された者が前に出る。
向かって行っても捌かれて終わるだろう。
ならば、仕掛けて来るのをこちらが捌くしかない。
ふわりと笑んだ雪が鞭のようにしなやかに腕を振るう。
軽く打ち合っていた打撃が徐々に力を増し斉藤の腕を痺れさせる程に重たくなっていった。
かなりの鍛錬を積んだのだろう。
細い足腰からは想像も出来ない程に重い打撃に斉藤は捌く事で精一杯だった。
的確に急所を狙う雪に誘導されるまま必死に捌いていった。
額から汗が垂れ顎から落ちていく。
【終始奥様の無双です。】
一言、啓一にメールした林田が斉藤を押し続ける雪を眺めていた。
直ぐ様受信を告げる携帯に目を移すと啓一からの返信だった。
【当たり前だろ
俺より強いのに負ける訳ねーよ】
文面を読み上げたと同時に、どたんと大きな音が道場に響いた。
「参りました。」
「ありがとうございました。」
斉藤からの投了があり組手は無事終了した。
総当たりで行ったというのに大して汗もかかず全員を下した雪は相も変わらずにこにこと佇んでいた。
「お疲れ様でした。
若にはきちんと報告させて頂きました。」
「なんて言ってました?」
林田が雪にタオルを手渡し報告した旨を告げる。
「俺より強くて負ける訳がない、と。
そういう事でしたら先に仰って下さい。」
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