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隼人が昏睡状態になってからの月日はとてつもなく長く、そして退屈だった。
夏の夜風を感じてほしくて窓を開けても、ニコリともしない隼人の寝顔を見る日々はとても辛いもので。
真冬の真っ白な景色を見よう、とカーテンを開けたところで反応してはくれない。
飯窪が読み終えた隼人好みの小説がサイドテーブルいっぱいに乗っかっていても、それが減ることはなかった。
乃木の少し痛い点滴だって無表情で耐えて見せるんだ。
急すぎるだろ。
せめておやすみの一言でもかけてくれたなら。
あのへにゃへにゃの笑顔さえ見られれば。
俺は頑張れるのに。
どうして起きないんだよ。
現実拒否か?大丈夫だよ、もう痛い採血をする医師はいないから。
おいしいねっていつも食べていた入院食だって毎日食べられるから。
無理矢理ラジオ体操に参加させたりしないから。
大丈夫だから。戻ってこいよ。
「隼人………。俺を一人にしないでくれ…」
微動だにしない細い手を握ってみても、やっぱり微動だにしない。
コンコンッ
「桐生先生、久保先生が呼んでますけど、断りますか…?」
病室に入ってきた乃木がこうやって気遣ってくれるようになったのはいつからだったかな。
前はそんなこと、なかったのに。
「いい。行く」
「ナースステーションにいます」
隼人の手を離すのが名残惜しい。
もっとずっと握っていたい。
病室のドアを閉めるときに寝顔を確認するのも癖になっている。
俺が背を向けている間に起きてやしないかと期待を込めて。
いくら綺麗な寝顔だからって、いつまでも見ていたら飽きてしまうだろう。
そろそろ目を開けたらどうなんだ。
まったく。手のかかる患者だな……。
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