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side 飯窪
記憶がなくなっても好きな小説のジャンルは変わっていないらしく、すごい勢いでおさがりの本を読み漁っている隼人くん。
不思議なことに発作も意識を失うこともなくなっていて、今では普通より少し体力がないだけで一般の高校生と変わらない。
本来なら治療が完了した患者は退院しなければならないけれど隼人くんには身寄りがない。
だからずっとこの病院にいるわけだが。
記憶がなくなってしまったのならここに留めておく必要もなくなる。
それなのに、この子の主治医ったら。もう。
親バカみたいな先生で。
隼人くんの親戚の連絡先は分かっているのに、連絡することを頑なに拒むんだから。
コンコン
そのくせ。
様子を見に行ってこいと命令する口は達者なんだよなぁ。
「あれ、その本この前読み終えてなかった?」
「あ。うん。そうだけどまた読みたくなった」
お気に入りか。
いいよね、時空を超えて会いにくるお話。
「熱測ろっか」
桐生先生が隼人くんに会いたくない気持ちは分かるよ。
こんなに元気そうなのに隼人くんじゃないみたいで辛いという気持ちが、分からないわけないけど。
でもさ。
こっちだって辛いんだよね。
前の隼人くんを知らないわけじゃないし、むしろ仲良かったし。
みんな同じなのに。
どうしてここに留めておくの?
みんなが辛いだけじゃない。
そりゃあ?素性のわからない親戚の家に放り込むのもものすごく覚悟のいるものだけどね?
思い出させないようにするためにも、俺たちが忘れるためにも、それはとても有効な方法じゃないのかなと思うわけだよ。
「熱、あるね」
「…」
「解熱剤入れる?それとも…」
医者なのに。
治さないという選択肢を選ばせるなんてさ。
「…いらない」
「そっか。じゃあ安静にね」
よくないでしょ。
ストレスを与えたくないのは分かる。
でもだって、こんなことをしていたらこっちが病むよ。
治さないなら親戚の元へ帰らせてよ…。
熱でうなされる隼人くんなんて見たくない。
前の隼人くんが虚像だったんだとしても、楽しそうだったよ…。
キリちゃん、キリちゃんって、主治医のことをバカみたいに好いてて。
素敵な関係性だなって。感じてたのに。
どうしてこんなことになっちゃうの。
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