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side 桐生
体調が良くなったらどうなるのか。
聞かれて曖昧に答えるしかできなかった。
ここ数ヶ月、隼人の容体は少しずつだが悪化している。
体調がいいと感じる日もあるようだが、気のせいに近い。
数値が全てを語っている。
パソコンの画面を見ながら考える。
もし、今の状態から元気になれたとして。
退院できるまでに回復したとしたら。
もう2度と発症しないというところまで治ったら。
何をしたいだろう。
病院を出て1人暮らしとか。
世界を知るために世界一周とか。
学校に行くとか。
何をしたいのだろうか。
今度聞いてみるか?
いや。
変に期待させても…。
この数値じゃ、回復は難しい。
こうして離れている時間が心配でたまらない程、隼人は弱っている。
なぜ、治らない。
俺の前では気丈に振る舞うのも問題点だ。
もっと、些細なことでも言ってもらわないと。
病名は分かっていても、治らない原因は不明だ。
ずっと。
ずっと分からない。
いくら検査しても、いくら調べても、答えが出ない。
なぜ悪化するだけで回復しない。
何度もこうやってパソコンの画面を睨みながら考えるのに、何も分からない。
くそっ。
舌打ちをしてパソコンを閉じる。
腕時計に目をやると21時23分を指している。
今日も泊まろう。
何泊目だろう。
前の発作から心配で帰ることができずにいる。
隼人の発作は深夜に起きることが多い。
乃木がいればまだ、よかったのだが。
あんなことをする奴だ。
隼人は謹慎処分しないでと言っていたが。
看護師が3人程見ているし。
あーくそっ。
今日何回目の舌打ちだ。
ため息をつきながら電話をかける。
『お疲れさまです。どうかしました?』
「謹慎処分はナシだ。今すぐ病院に来い」
『え?今からですか?なにかあったんですか?』
「何もない。いいから早く来い」
一方的に通話を終わらせ、舌打ちする。
こっちは心配で寝ることもできないんだからさっさと来いってんだ。
しばらくやめていたタバコを吸う。
『君ならどうにかできるはずだから』
『他の奴じゃ手に負えなくて』
『君ほど優秀なら』
7年前。
噂を聞くくらいの関係だった隼人の主治医になってほしいと言われて以来、タバコを減らした。
数ヶ月間だけやめていたタバコは、美味しくもなくまずくもなかった。
すれ違う患者の親たちが話す隼人の陰口。
『反抗期なのかしらね。迷惑ばっかりかけて』
『あんなのが近くにいたら治るものも治らないわ』
関係ないと思っていた。
身寄りがないのは知っていたけど、それなら主治医や周りの医師が指導すればいいと思っていた。
俺にもその類の苦情が来たことがあった。
『あの子を別室にして。部屋が違うのにこんなにうるさいなんて。教育がなってないって親御さんに伝えてちょうだい』
隼人とは別室に入院していた子の母親に言われた。
同室にいた女の子の親にも言われたことがあった。
1度隼人も張り合ったことのある女の子だが。
とにかく問題児で煙たがられていた。
生まれつき心臓に疾患があって。
それが心臓病だと分かって。
2歳の頃からの入院生活。
入院してすぐに両親が事故で亡くなってしまって。
ストレスが溜まるとかの話ではない。
生きる希望を失うようなことを経験しているんだ。
誰も強く責められるはずがなかった。
前の主治医を除いては。
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