その日は、雨が降っていた。

窓についた水滴がひとつ、またひとつと滑り落ちる。
そんな、何気ない一日。

傘をさした小学生が、水溜まりで楽しげに遊んでいる。
カッパを着た中学生が、憂鬱そうに水飛沫をあげならがら自転車を漕いでいる。
耳にピアスをつけた女子高校生が、彼氏と一緒に雨の中を走っている。
車は音を立てて走り去り、信号は休むことなく点灯する。

「冴木悠さん」

そんなあたりまえのこうけいだった。

「ご両親も、落ち着いて聞いてください。」

医者と呼ばれるその人は、言いにくそうに、けれどはっきりと言葉を紡いだ。

「残念ですが、貴方の余命はあと」

雨音が僕の耳から消えた。

「1年です」

その瞬間、当たり前の光景が、僕の中で崩れていった。