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コンクールの大悲劇-3
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いつもきちんと整頓されているテーブルをぐるっと回って、凪の隣に腰掛けた。
背が高い凪と小柄な漣人の身長差が20センチ程あるせいで隣に座るとちょうど首の辺りに目線が来る。
凪の姿をじっと見つめていると、昂っていた気持ちが音量を絞るかのようにスーっと治まって、心が落ち着きを取り戻す。
髪の色が漣人の家で飼っている犬にそっくりだっていうのもあるけれど、落ち着くポイントはそれだけじゃない。
(ああ、今日も先輩いい匂い~)
この匂いを嗅ぐと、何故かホッとするのだ。
これ以上落ちようのないドン底に居る今日でも、その威力は健在で、光の全く届かない深海から海抜数百メートルぐらいのところまでは浮上してきた。
凪の愛用している香水はイタリアの有名ブランドの人気商品で、自分も買ってみようかと何度か試みたが、背も小さくて子供顔の自分には似つかわしくないと思って諦めた。
(あ~、極楽極楽)
朝から張りっぱなしだった緊張の糸がようやく弛んだからか、眠気が襲ってきてお布団が恋しくなる。
このまま寝て起きたらコンクールの大失態が消えてなくなってくれているなんてミラクルが起こらないだろうか。
出来れば結果発表も行きたくないなー、と目を閉じて寝た振りをしていると突然頬っぺたをつねられた。
もちろん軽く摘む程度で痛くはないのだが、普段の凪には似つかわしくないその行為に違和感を覚えて顔を上げる。
(?)
目に入った凪の顔からいつもの笑みは払拭されていて眠気も何も一気に吹っ飛んだ。
(!)
「で、昨日は家に帰らず何してたの?」
落ち込んだ心を今の今まで癒してくれていた大好きな優しい先輩は、一瞬にして厳しい部長の顔に変貌を遂げた。
普段穏やかな人が穏やかなまま表現する怒りというのは効果覿面で、背筋にビリっと電気が走る。
(うわー、やっぱり演奏聞かれてたんだ。絶対そうだ)
少しずつ下降を始めた漣人の視線はそのまま下がり続けて、テーブルの下に敷かれた黒地に茶色のストライプが入ったカーペットに着地した。
「えっと……あの……」
何とか言い訳を搾り出そうとするも、こんな時に限って何も出て来ない。
何て言ったら怒られなくて済むのか考えようと焦れば焦るほどドツボに嵌まって行く。
「律耶がね、ゆうべ見たんだって」
「うそ……」
よりによって最も見られたくない人間に目撃されていたなんて、とことんツイていない。
「早く帰るように言ったよね?」
笑みこそ見せないものの、怒りの「い」の字も見てとれない表情に加えていつもと変わらない優しい口調が逆にとても恐ろしい。
声を荒らげて怒鳴られるのもそれはそれで堪えるけど、音を立てずにソローっと広がる静かな怒りはもっと恐い。
「でも……約束があって……」
「約束?」
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