アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
コンクールの大悲劇-9
-
「な、何て言いました?」
出来る限りの平静を装いつつも、心の中では「聞き間違いであってくれ」と念じまくる。
「だから、これから漣人は律耶に付いて練習をするの」
非常に残念だが聞き間違いでないのが確定してしまったようだ。
しかし何で自分が? 律耶に教わるようなレベルには全く達していないし、他に律耶のレッスンを受けたい学生はそれこそ掃いて捨てる程いる。
「ナンデナンデスカ?」
全く予想もしなかった展開に、学習歴十何年の日本語すらも片言になってしまう。
「今回、セミナー終わってから自費で滞在延長しようと思うんだよね。不在期間がけっこう長くなるからこの機会に律耶にお願いして漣人を鍛え直して貰おうと思って」
「ヘ?」
鍛え直すという単語の奥に何やら得体の知れない恐怖を感じる。
そもそも律耶が漣人なんかに稽古をつけてくれるとは思わないし、他のメンバーも黙ってはいないだろう。
「でも、他の先輩が優先では……」
「うん。誰が何と言おうと最終決定権は俺にあるから大丈夫。ここの部長は俺だからね」
凪の優しいスマイルが悪魔の微笑みにしか見えない。
(あの恐ろしい先輩のレッスンを受けるなんてありえない。そんなの絶対いやだ)
とにかく何とかして発言を撤回して貰わなければならない。
「やっぱり夏休みのレッスンはなくていいですっ。一人で練習できますから」
すがり付くようにして訴える。
律耶のレッスンなんて受けたら一日で胃潰瘍になって病院送りだ。
「グレード試験が近いんだから、ちゃんとレッスン見てもらわなきゃ駄目」
「じゃあピアノ教室に通って……」
「誰が月謝出すの? 今バイトしてないんでしょ?」
コンクールの練習もあったので、スーパーで品出しをするバイトのシフトを先月からかなり減らしていた。
親に借金を……という方法も頭を過ったが、今、父の残業が少なくて家計が苦しいと母が嘆いていたのを思い出して断念した。
自分の我儘で親に迷惑を掛けるわけにはいかない。残る手段は……。
「凪先輩、来月バイトして返すんで」
「却下」
(ぅう、殺生な)
何とか借金させて貰えるように凪の瞳をじっと見て訴える。
「目ぇウルウルさせても駄ぁ目」
(ヤダヤダヤダヤダ。こんなの絶対ヤダーッ)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 54