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鬼軍曹のおうち-4
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「おい」
(あーあ……)
「おい!」
初日からこんなに気が滅入るのに、凪が帰ってくるまで耐えられる自信がない。
「おい!!」
「!」
突然二の腕をガシッと掴まれて隣に顔を向けると、眉間に皺を寄せた律耶と目があった。
「着いたぞ。昼間っからよくそれだけボーッと出来るな」
気付けばバスは隣の県にある空港から見覚えのある地元のターミナル駅に戻ってきていた。
隣からのプレッシャーに急かされるように荷物だけ掴んで立ち上がる。
通路に出てから、座席のリクライニングを戻し忘れたのを思い出したけど、今はそれより律耶の不興を買うのが恐ろしい。
(もう1回お寺に行ってきた方がいいかな……)
凪がオーストリアから帰ってきたらまた温泉旅行に連れて行ってもらおう。
今度はお賽銭も500円入れて『律耶先輩がこれからの人生に関わってくれませんように』と願を掛けたい。
高速バスのターミナルがある駅から、市内を南北に走る電車に乗って10分も経たないうちに律耶邸の最寄り駅に辿り着いた。
漣人が住んでいるのは、ここから更に10分以上乗ったところなので街中に住んでいる律耶が羨ましく感じる。
電車を降りて10分も歩かないうちに律耶のマンションに到着した。
真夏日になるとの天気予報の通り茹だるような暑さで、夏が苦手な漣人はヘロヘロになっていた。
学生の独り暮らしには少々どころか、かなり立派すぎるようなマンションの最上階に律耶の部屋がある。
大学に通いながら、ピアノ講師としての副業も持っているのでお金には不自由した事がないと周りから聞いたことがある。
漣人たち一般の学生がするようなスーパーやコンビニのアルバイトとは時給も雲泥の差らしい。
中は落ち着いた木目調のインテリアで、大きなグランドピアノが真ん中に鎮座している。
「座ってろ」
ピアノの鍵盤が見える位置に置かれた革張りのソファーをぞんざいに指差して律耶はキッチンへ立っていく。
(うわー、緊張してきた)
今から鬼の猛特訓が始まると思うと、緊張で腰が抜けたようになってソファーにへたり込む。
叩かれるだとか、泣かされるだとか、今までに見聞きした情報を総合すると、今からの自分の境遇については嫌な予感しかしない。
(このまま、出水先輩が一生戻って来なかったらいいのに)
そんな漣人の願いも虚しく律耶はすぐにキッチンから姿を現した。
「飲め」
律耶がトレーに載せて運んできたのは氷がいっぱい入った麦茶らしきグラス。水滴が滴って美味しそうで喉が鳴った。
「頂きます」
暑さで喉がカラカラだったので、一気に飲み干してしまった。
「ありがとうございます」
「別に。熱中症で倒れられてもこっちが迷惑だ」
律耶は不機嫌そうな表情のまま、プイッと横を向いてしまった。
しかし、その手は麦茶のおかわりを注いでくれているのを見て、実は意外と優しいところもあるんじゃないかと不覚にも思ってしまった。
このぶんなら練習も意外と優しいかもしれない。
なんて考えは浅はかだったと、すぐに気付かされることになるのだった。
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