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雷の夜に-3
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「辛いときは辛いって言っていいんですよ。人間はみんな心の奥に弱いところを持っているんだから」
律耶は漣人の台詞に当惑したような表情を浮かべた。
「中丸……お前はどうして……」
その顔からいつもの険しさは消え、代わりに諦めにも似たようなある意味空虚な色に支配されていた。
突然の変貌に漣人が驚いていると、律耶はゆっくりと口を開いた。
「コンクール前日の夜、気分転換に酒でも飲んで帰ろうと居酒屋に立ち寄った」
「喧しい店内で偶然にも一瞬の静寂が訪れた。その時、耳に入ったのがお前の言葉だったんだ」
その日漣人は酔っていたので全く覚えていないのだが「ピアノサークルの出水先輩はピアノも上手くて、みんなの尊敬を一身に集めているんだ」と宣ったらしい。
「嬉しかった」
凪にベッタリで自分の事を避けに避けまくっている後輩に誉められた。
それまで美味しく飲んでいた酒の味がしなくなるほど、その言葉は律耶の心に深く響いた。
(何でそんな事言ったんだ、あの日の俺?)
久しぶりに会った同級生との間で「今どうしてる?」なんて会話が交わされるのは当然としても何故に律耶が出てくるのか。
しかも、痒くなるぐらいに褒めまくっている。
いくら飲んでいた時の記憶がなくなるといえど、律耶をあの店で見掛けていたら流石に覚えている筈だ。コンクール前夜だから先輩に絶対に見つかってはいけなかったんだし。
(オサケコワイ)
自分の知らない所で自分の知らない世界が広がっている。
(まぁ、悪口を言ってたわけじゃないから)
誰にも迷惑を掛けてはいないし、酔った上での戯れ言で済まされる筈だ。
だが、その後の台詞が大問題だった。
「友達が凪先輩しか居ないんだ」
「はい?」
友達なら凪以外にもいっぱい居る。
この人はいきなり何を言い出すんだ。
「お前が俺の事をそう言ったんだよ」
「へ?」
(そんなの知らない)
律耶に友達が少なそうだなーというのは薄々感付いていたけど、何を思ってわざわざ口にしたのか。
あの日の漣人に一体何があったのか、某ネコ型ロボットに頼んであの日に遡りたい。
そして、出来ることならあの日1日の自分の所業を消し去りたい。
しかも「無理して強がっていないで自然体で居たら自分も楽だし、みんなとも仲良く出来るんだ。そしたら俺だって出水先輩と仲良くしてあげてもいいのに」という爆弾発言まで飛び出したと言われ、もう何が何だかわからなかった。
あの律耶にそんな上から目線で物を言うなんて何様だよと、その日の自分に全力で突っ込みたい。
(仲良くしてあげてもいいとか……)
他の人はどうか知らないけど少なくとも漣人に関しては、お酒が入った状態での発言なんて一夜明けたらひと欠片も覚えていない。
しかし、コンクールから今日まで何回も顔を合わせていたのに何で今まで咎められなかったのか。
「何か……今さらですけどすいませんでした」
とりあえず謝ってみると即座に顔を上げさせられた。
「謝る必要なんてない」
「でも……」
「本当のことだからな」
いくら事実だとしても本人の耳に入ってしまっては失礼なんていう言葉では済まされない。
「お前は……いいんだ」
「は?」
「何ていうか……その、気に入っているから」
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