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ラニアン襲来-1
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「連弾……ですか?」
元鬼軍曹なりの「愛情表現」である猛稽古にもようやく慣れてきた頃、律耶から1冊の楽譜を手渡された。
いつも練習で使っている楽譜と違ってそれは4手連弾、つまり2人で並んで1台のピアノを弾くためのものだった。
「これを誰と誰が弾くんですか?」
漣人には今までに連弾の経験は殆んどなかった。教則本を進める中で出てきた時に凪に2~3度相手を務めて貰った程度だ。
「今度サークル内でやる発表会でお前と弾けたらと思ってな」
「えーっ?」
あまりに急な申し出に目が点になる。
そういえばオーストリアに旅立つ前に凪が、今度の発表会は連弾特集だと言っていたが、自分には関係ないものだと軽く聞き流していた。
「嫌か?」
「嫌じゃ……ないけど」
自分と律耶が並んでピアノを奏でている場面を頭の中に描こうとするも、どうにも上手くいかない。
サークル内では飛び抜けて優秀な実力を持つ律耶とひとつの音楽を作り出せるのは魅力的だ。
しかし、今すぐに思い浮かぶだけでも幾つもの障壁が先を阻む。
「俺と律耶先輩とじゃレベルが違いすぎますよね?」
「それは問題ない。お前の弾ける曲を選んだから」
「うーん」
自分のレベルに合わせて貰えるのは有り難いけど、それでは律耶に申し訳ない気がする。
同じ連弾をするにしても、もっと経験のある生徒をパートナーに選べば律耶も楽しんで弾けるように思えてならない。
「連弾ってな、ピアノ教室の発表会では幼稚園児が先生と一緒に弾く事も多いんだぞ」
「それなら俺は凪先輩と弾いた方が良いのでは?」
そもそも漣人は凪の弟子だ。律耶には仮にお世話になっているだけだから凪が帰国したら一緒に練習することもなくなる。
「何を言ってるんだ? 俺はお前を凪に返す気はこれっぽっちもないからな」
「はあっ?」
「何だ、お前はそんなに凪の方がいいのか」
「いや、そんな事は言ってませんけど」
「じゃあ問題ないな」
律耶はこれで話は終わりだとばかりに楽譜を広げて早速練習に掛かろうとするが、まだ最大の難関が残っている。
「サークルの先輩とか怒りませんか?」
律耶の直属の弟子たちを差し置いて自分がノコノコと出ていったらどれだけ不興を買うことか。
「大丈夫だ。何か言われたら俺がガツンと言ってやる」
嘗ての律耶からガツンと言われたら裸足で逃げ出せる自信があるけど、雷の夜を境に律耶は丸くなった。
尖ったところをすっかり削ぎ落としてしまったこの人に叱られても正直怖くも何ともない。
(角材でも渡しておいたほうがいいかな……)
何かと心配事を残したまま連弾の稽古はスタートした。
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