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えびづくし-1
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「どこか遊びに出掛けないか?」
律耶の発案で電車に乗ってやってきたのは水族館。
ある程度想像はしていたけれども夏休みのこの日、見事にファミリーに埋め尽くされていて男同士の二人連れなんてどこを見ても居やしない。
男前の律耶が目立つものだから、平凡な漣人には少々居心地が悪い。
「動物園と迷ったんだけどな」
律耶は漣人の顔色を伺うが、全力で水族館で良かったと即答した。
この暑いのに動物園なんてゾッとする。
それでも子供は動物園に行きたがるんだから世の中のパパさんママさんを尊敬する。
「俺もいつか……」
「ん?」
今は将来何になるかなんてまだ何も決めていないけど、いつかは結婚して子供が出来る。
そうしたら夏の茹だるような暑さの中でも雪が降る冬の日でも子供にせがまれたら動物園に連れて行くのだろう。
そんな未来が当然だと思って生きてきた。
「やっぱり何でもないです」
いつか子供が出来たら、なんてうっかり口に出しそうになって、寸でのところで言葉を飲み込んだ。
思い描いた未来図がゴロっと変わる選択肢が目の前にある。
色々先延ばしにする筈だったのに。引き延ばして引き延ばしまくって誤魔化すつもりだったのに。
ラニアンの一件以来、どうしても律耶を「男」として意識してしまうようになった。
告白してきた本人はそうなってくれる事を望んでいるんだろうけど、突然想いを打ち明けられた方としてはなかなかすんなりと受け入れられない。
「先輩」
「な、何だ? 漣人」
「楽しかったですね、水族館」
「そ、そうだな」
丸い窓から海が望めるソファーに並んで腰掛ける漣人がほんの少し距離を詰めただけで律耶は顔を真っ赤に染める。
そんな律耶の初心な姿に、嘗ての鬼軍曹さまは一卵性双生児だったのではないかと疑問が沸いてくる。
もし本当に双子で、鬼のような律耶と初心な律耶が居て入れ替わったら……。
恐いのは勿論お断りだけど、だからといってベタベタに甘いだけなのもちょっと物足りない。
ヒリヒリするような緊張感の中で不意に顔を出す優しさの破壊力は最強だしやっぱり今のバランスが丁度いいんだ。
でも、最近は律耶の専売特許である恐さがすっかり影を潜めてしまっている。
(たまには怒らせないとつまらないな)
「ふふ」
何をして怒らせようかと考えていたら笑いが込み上げてきた。
「?」
いきなりクスクス笑い出した漣人を見てきょとんとする律耶が可笑しくて更に笑えて困る。
「また一緒に来ましょうね」
「あ、ああ」
しどろもどろの律耶が新鮮だとか愉快だとか色んな感情がごった混ぜになったその勢いで律耶との距離をグイッと詰めた。
「人が……見てる」
距離が縮んだ分だけ離れようとするのが面白くてもう一度寄っていってみると、律耶は更に困った顔で立ち上がってしまった。
「そ、そろそろ帰らないとな」
何をそんなに困る事があるのか。
(そっちから好きだって言ったのに)
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