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シマジロウ温泉-3
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「涼し~」
「本当だな」
食事をしている間にすっかり日は落ち、辺りは山の夜特有のひんやりとした空気につつまれていた。
「この涼しさを堪能しないのは何か勿体無くないですか?」
「そうだな、散歩でも行くか?」
「俺、お菓子買いたいです」
徒歩20分のところにあるコンビニも街中に住んでいれば果てしなく遠く感じるが、山の澄んだ空気の中を歩いているとあっという間だった。
「あ、あそこから川に下りれますよ」
コンビニの袋を手に来た道を戻っていると、交差点から続く橋の脇に河原へと繋がる石段を見つけた。
「川のとこ通って帰りましょうよ」
漣人は石段を数段タンタンとリズミカルに下りながら律耶を手招きした。
これが地元なら、この先に上へ上がる階段があるかどうかもわからない川縁をわざわざ歩く気にはなれないけど、ここは空気がゆっくり流れる山奥だ。
多少の冒険心も加勢して、2人は川沿いの道へ歩を進めた。
いかにも蚊が集まりそうな水辺の草叢も、律耶が用意周到に持ってきた虫除けのお陰で気にならない。
道なき道を歩く煩わしさは涼しいからという理由で帳消しにできても、慣れない下駄での散歩に足からは文句が出始める。
「あ、ベンチがありますよ」
「ちょっと休んでいくか」
木で出来たベンチに腰を下ろすと律耶が、コンビニで買ったコーラを開けてくれた。
「川みたい」
「ん? 何か言ったか?」
漣人の独り言はゴウゴウと轟く川の流れに飲み込まれてしまう。
「先輩ってこの川みたいだなーと思って」
「川?」
「流れの激しい川ってパッと見恐いけど、実際手を突っ込んでみると意外にマイルドなんですよね」
「マイルド……」
コーヒーじゃないんだから、とブツブツ言う律耶に背を向けて流れに手を差し込んで見せる。
「落ちるなよ」
「大丈夫ですよー」
律耶の心配そうな声というのも付き合い始めた頃には新鮮だったけど、慣れてくるともっと心配させたいといった悪戯心が湧いてくる。
下駄を脱ぎ、浴衣の裾を捲り上げて浅瀬に片足を浸してみると、ひんやりとした流れが夏のべたついた肌を洗い流してくれて心地よい。
そのままもう片方の足も川底に着けると、上体が持っていかれそうになって咄嗟に手を上げてバランスを取った。
「漣人!」
律耶の心配そうな声は聞こえない振りをして一歩歩みを進めてみる。
「おい」
律耶の『おい』はこれでもかと言う程耳にしてきたけど、今日のは格別優しい。
そんな『おい』を頂いてしまうと、もっともっと心配させたくなる。
(Tシャツで来ればよかったな)
ハーフパンツとTシャツで出てこればもっと深いところまで行けたのに、浴衣では行動範囲が限られてしまう。
「あんまり遠くへ行くなよ」
声が思いの外近くから聞こえて振り向くと、ベンチに腰掛けていた筈の律耶が心配そうにすぐ側で立っていた。
(本当に心配性なんだから)
「もうそろそろ戻って来ないか?」
「はーい」
「足元気を付けろよ」
「はいはーい、痛っ」
心配性の律耶を面白がっていてバチが当たったのか、足の裏にピリッとした痛みが走った。
「大丈夫かっ」
「何か踏んだみたい」
片足でピョンピョンと跳ねながら川から上がると律耶が身体を支えてくれた。
「見せてみろ」
ベンチに腰掛けて痛い方の足を持ち上げると、親指の腹に薄っすらと血が滲んでいた。
「痛むか?」
「全然大丈夫です」
ちょっと何かが刺さった程度の指も律耶にかかれば大怪我だ。
「とりあえず応急措置だけして、帰ってから消毒だな」
「これぐらい平気ですよー」
勿体無いから川の水でいいという漣人を押さえて、さっきコンビニで買ったミネラルウォーターの蓋を開けて傷口を洗ってくれた。
「もう飲む分なくなっちゃいますよ」
「いや、念には念をだ」
痛さはとうに退いたので只々くすぐったいのだけど、何故だか心臓のあたりがモゾモゾして来た。
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