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撮影開始 1
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「おはようございます」
カツカツと革靴の音がスタジオに響くと同時に、たくさんの目線が向けられるのを肌に感じる。
「わぁっ......、本物の上条さんだぁ......!」
「格好良い......」
ーー色めき立つ女性陣の声。
「やぁ、上条くん。
今日も格好良くキマってるねぇー」
「はは、ありがとうございます」
ーー持ち上げようとお世辞を言ってくる監督。
そう、ここはそういう世界だ。
たくさんの嘘と建前で成り立つ世界。
人気者はちやほやされ、メキメキと権力を確立させていく。
そしてその権力を恐れ、たくさんの者が気に入られようと媚びを売る。
それが芸能界というものだ。
まさしく、俺が今いるこの現場もその状態。
正直うんざりしているが、それでも俺はこの仕事が好きだからここに居続けている。
しかし、この現場では新たな出会いがあった。
「はよございます」
スタジオに聞こえて来た声の方へ目線を向ければ、俺と目が合うなり舌打ちをかましてくる。
たくさんのスタッフが俺に気を遣ってくるこの中で、唯一気に入らなそうにしてくる奴が一人。
「葛木くん、おはよう!
今日も気合い入れていこうね」
「うっす。任せて下さい」
俺程ではないといえ、色めき立つ女性陣を華麗にスルーし、監督と言葉を交わせてこちらへ向かってくる奴。
葛木 佑磨(かつらぎ ゆうま)、21歳。
最近ブレイクし、今や映画やドラマに引っ張りだこ状態にある若手俳優だ。
そんなこいつが何故俺に敵意を持っているのかは知らない。
なんていったって、今日が撮影初日だ。
これから数ヶ月の付き合いが始まるというのに、よくここまで嫌われたものだと思う。
3ヶ月程前、俺の冠番組にゲストとして来たときは別に普通だった。
バラエティだったのもあるだろうが、楽屋挨拶の時だってここまで険悪な感じではなかった。
恐らく、態度が一気に変わったのは、このドラマの顔合わせでだと思う。
あの日以来、こいつは俺に対してこんな感じで接してくるようになった。
......まぁ、俺としては正直どうでもいい。
別に仲良しこよしなんかは求めていない。
俺はただ、自分の仕事をこなすだけだ。
台本のページを一枚捲る。
俺が今回演じるのは、病気で声を失うロックバンドのボーカル、速水駿。
速水は、歌うことが何よりも好きな奴で、性格は天真爛漫、活発な大学生である。
「それじゃあ、早速シーン1から撮っていきます」
指示が出され、机の上に台本を置いて立ち上がる。
この瞬間で、俺は上条 達哉(かみじょう たつや)から、速水 駿へと切り替わる。
「シーン1までー......3、2、1......アクション!」
監督の掛け声と共に、撮影が開始された。
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