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嘘つき
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あれからもうどれほどの時が過ぎたのだろう。
旦那は未だに帰らない。
もう、武田も限界だった。
「ウォオオオオオオオオオオオ!!!」
武田は攻め込まれた。
もう、あの頃の活気を失った武田は、瞬く間に敵に埋め尽くされた。
「みんな!!旦那の帰ってくる場所を守るんでしょ!!!」
その言葉でみんな気力を少しずつ取り戻した。
さらに、俺は影武者とかそんなんじゃなしに、旦那に変化した。
無論、軍の士気を上げるためだ。
再び、紅い背中を見た武田軍は猛攻を始めたが、なんせ碌々(ろくろく)物を食べたりしていないのだ。体力も、気力もそう長くは持たなかった。
一人、また一人と死んでゆく。
「やっぱ、俺様じゃだめなんだよ。・・・旦那じゃなきゃ、だめなんだよ。」
その時、誰かが呟いた。
「ああ、これで幸村様の所へ逝ける・・・。」
その言葉で、武田は一気に崩れ去った。
「ちょっと、待ってよ!!旦那はまだ生きてる!!!」
「・・・なにを根拠にそんなこと申しておるのだ、武田の忍よ。」
「!!」
今、刃を交えている奴がそう言い放つ。
「お主も気付いておるのであろう。もうあの甲斐の若虎はこの世に居ないのだと。」
「!?そんな訳、ないでしょ!?」
「そうか。なれば何故お主は涙する。」
「!?ッ!!!」
無意識の涙。
それは
無意識の諦めだった。
「お主も若虎のもとで、共に眠るがよい。」
「!!!」
そうだね。
それがいいかな。
― 旦那 ―
伊達軍が援軍として戦場に赴いた時、それはとうに事済んでいた。
政宗は血だまりの中で、唯一まだ息のあった佐助を見つけると、そっと抱き起した。
とりあえず、救護班は呼んだものの、もう、佐助自体に生きる気が無い様だ。
「あはは、遅いよ・・・竜の旦那。」
「・・・喋んな。死ぬぞ。」
「・・・ねえ、もうアンタらも分かってんでしょ?旦那はもう、居ないんだって。」
「・・・喋んなって、言ってんのが聞こえねえのか。」
僅かに憤りを含ませながら、政宗もどこかでそう思ってしまっている自分を嘲笑した。
「・・・なら、さ。こんな世界に未練なんかないよ。武田だって、本当はどうでもいい。俺は、旦那の為に存在してるんだから。」
「・・・。」
「俺の世界は、旦那で始まって、旦那で終わるんだなぁ・・・って思ったらさ、もう何もかもどうでもよくなったんだ。」
「・・・黙ってろ、死にてえのか。」
「死にたいよ。早く死んで旦那のところにいきたいよ。そうすれば、ずっと一緒にいられる。」
「そんなこと、あいつが望むとでも思ってんのか。・・・あいつは、そんなこと思わねえよ。」
「なんで、言い切れるのさ。」
「あいつと前に手合わせしたときに言ってたんだ。『もし、某の命が散るようなことがあっても、どうか佐助には生きていてほしいのでござるよ。だから、政宗殿に某の最期を看取っていただけるような、そんな望んだ死が訪れたなら。その時はきっと、政宗殿から佐助に伝えてくだされ。』」
「佐助、生きろ。って。」
「ッ!!ずるいよ、旦那・・・。どうして、そんなこと言うのさ・・・。どうして!!!ッ!!!ウッ、ウゥ、ウウ・・・・ヒッ・・・」
涙が零れ落ちる。
「もう遅いよ、旦那・・・。」
「遅くねえよ、てめえは武田一の忍だろ?・・・そんでもって、あいつの・・・幸村の自慢の忍だろ。」
「!!」
「あいつ、いつもてめえの自慢話すんだぜ。嫌になるぜ、まったく。」
「ヴゥ・・・だんな、旦那ぁあ!!!」
「少しくらい、こっちの身になれよな。てめえの惚れたやつの目の前で他の奴の話すんだからよ。・・・清々しいくらいに、綺麗な笑顔で、さ。」
「・・・旦那、好きだよ、大好き。愛してる。」
「俺もだ、でもまぁあいつの好きなやつは俺じゃねえみてえだし。はぁ・・・付き合ってらんねえよ、ったく。」
「ぅああッ!」
「・・・あいつは生きてるよ。俺にやられるまで死なねえって、誓ったんだ。あいつは嘘吐くような奴じゃねえだろ?」
「・・・嘘つきだよ。ずっと一緒って言ったのに。」
「HA!!守るさ、あいつは。その約束。だから、アンタはせいぜい生きるこった。」
「・・・旦那。ずっと、待ってるから。だから・・・。」
「・・・Ah?って、おい!!チッ!!おい!!てめえら早く来い!!!」
薄れる意識の中、確かにその声を聞いた気がした。
― 生きろ ―
と。
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