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嘘つき
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武田道場 址(たけだどうじょう あと)。
確かにそこにはもう昔の面影はなく、黒ずんだ荒土が広がっていた。
佐助はそっと、同様に黒ずんでしまっている道場跡を示す看板の土を落とした。
「おお、こんなところに人が来るなんて珍しいこともあるもんだ。あの日以来だなあ。」
「!」
身体能力は落ちてない。この通り身軽に立ち退ける。
でも注意力などは少し落ちてしまったらしくこの「ホホ」と笑う老人に気がつかなかった。
「ここは何でも昔名を馳せた武田信玄の道場の跡だ。まあ見ての通り随分昔に戦で焼け落ちてしまったけどなあ。」
「・・・どうも。」
俺は歩を進める。
そうか、焼け落ちてしまったのか。
「あ。」
佐助はくるりと身体を回転させもう一度老人に向き直る。
「なんじゃいの。」
「あの、あの日以来って前にも誰か来たんですか?」
ここは山の中。
目的か何かが無い限りここに立ち寄る意味もない。
もしかしたら。そう仄かながらに希望を浮かべた。
「ああ、来たさ。」
「!!それは、あ・・・。」
考えれば身なりだって変わってるだろうし、こんな世界に旦那が居るとは考えにくい。
「ホホ・・・。何とも美麗な瞳の少年だったぞ。お前さんみたいに立ち尽くした後、手を合わせて立ち去ったよ。」
「!!!本当に!?」
「じゃが、最近は来とらんの。・・・ああそういえば。最近流行病で若いのが死んだらしい。もしかしたら、なあ・・・。」
「!!?え?どういう・・・」
「あそこはの。なかなかに落ちぶれてしまった集落なんじゃ。子供も愚か今や若者もおらん。少年はあそこへ帰って行っていたからの。おそらく、その少年じゃろう。」
「ッ!!でも!」
「落ち着け、若いの。」
「クッ!!」
「焦っても仕方あるまいよ。世の中というものは非情なのじゃよ。」
「・・・。」
今度こそ、佐助はそこから立ち去ろうとした。
「気をつけろよ。人生は一度きりじゃからの。」
「・・・あ。」
もう一つ。佐助はそういうと老人に訊ねた(たずねた)。
「この看板を立てたのはあなたですか?」
老人はそれには答えずただただにっこり幸せそうに微笑んだ。
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