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散る花と咲く華と (慶幸 ほのぼの)
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「花見、でござるか。」
「そっ!花見。」
唐突だった。
まあいつものことではある。
この慶次という男はなんの脈絡もないままに提案をしてくるような男である。
この日もそうだった。
いきなり来て花見に行こうと言い出したのだ。
「しかし今は・・・。」
「今しか見に行けないんだ。」
「それは花が散ってしまうからでござるか?」
「そう、だね。華が隠れてしまうから、かな。」
「・・・慶次殿の話は難しくてよく分からないでござるが・・・。今だけという言葉は何とも言えぬ甘美さを湛えておりまするな。承知した。行きましょうぞ。」
「本当かい!?」
<***>
「しかし、申し訳ないでござるな。今は佐助も出払っている故、大したもてなしもできずに。」
「いいんだよ。押しかけたのは俺なんだからさ。」
「慶次殿は何故、某を誘おうと・・・。」
「幸ちゃんと見たかったんだ。」
「花を、某と?何故。慶次殿ならば素敵な相手と花を見て酒を飲み交わすこと位容易いでござろう。ええと、例えば女子だとか。」
「いやぁ、別嬪(べっぴん)さんもいいんだけどね。俺は今日は二つハナを見ようと思ったからね。」
「よく分からぬが・・・。某と来て楽しめるということならば某は何も言いませぬ。否、嬉しく思いまするよ。・・・感謝いたす。」
「そんな、礼なんていらないよ!俺が好きでやってることだしね!それより、幸ちゃんのほうがわざわざ来てくれてありがとう、だからさ。」
「上田以外の桜や花々を見ることはあまりのうござるからな・・・。少しばかり楽しみでござるよ。」
「そうかい、そりゃぁよかった。」
「ほら、着いたよ。」
「これは・・・」
「どうだい、絶景だろう!!」
「ああ、まるで世の中の美麗なものを全て集めた玉のようだ・・・。」
高台から見る景色はとても綺麗で。
桜が風に吹かれて舞う空は青く澄み渡り。
下に見える村は生き生きとしていて。
ほんのりと香る花の匂いは柔らかく。
「あぁ・・・懐かしい。」
遠く。
母の面影を見たような気がした。
「幸ちゃん、楽しんでるかい?」
「大いに。」
「そうかい、よかった。」
ふわりと桜の花が一片舞って幸村の肩に色づく。
「幸ちゃん、肩・・・。」
「何でござろう・・・ああ・・・。」
幸村はそっと花弁をつまむと微笑んだ。
「・・・幸村、綺麗だよ。」
「―――――」
その世界だけが輝くように。
幸村の周りだけが満ち足りた世界になる。
これが二つのハナ。
まるでこの時のために。
今までを生きてきたのではないかと思えるほどに。
幸せな日々はまたゆっくりと刻を進めるであった。
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