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お題「ごめんなさい」SS
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俺達はいわゆるゲイカップルというやつ。籍は入れられないけど、もう何年も同棲はしていて、事実上の夫婦みたいに暮らしてる。いわゆる『パートナー』は良くできた奴で、我儘も文句も言わず、控えめで優しくて、気が付き過ぎる程だった。
そんなそいつが1回だけ「欲しいものがある」と言って来たことがあった。
ちょうどそいつの誕生日が近かった事もあり、休日に買いに行くことになった。
だがいざ買おうという時になっても、そいつは俯いてモジモジしたまま。何が欲しいのかもわからないから、「何でも怒らないから早く言ってみろ」と催促すると、赤い顔である物を指した。犬の服だった。
俺達は動物を飼っていない。ピンときた。そこは大型ショッピングモールで、動物用品の売り場の隣には子供用品店だ。そこに、犬の服とデザインが良く似たベビー服が売っているのを知っていた。
思わず目頭が熱くなった。そういえば、近所の若夫婦がベビーカーを押しながら楽しそうに出かける姿を、時々寂しいような切ないような目で追っていた気がする。
俺達はもういい歳だから、そういう事は割り切っているって思ってたけど、こいつは違ったのかもしれない。もしかしたらこいつは女と結婚して子供授かった方が…なんて、今更だな。こいつを一生かけて幸せにするって何年も前に誓った筈なのに。
いろいろ迷ったけど、最終的にこっそり子供服を買って贈った。さすがに包みを開けた時は驚いていたけど、すぐに顔をくしゃくしゃにして真っ赤な顔で喜んでた。
夜寝るその時までずっと、ありがとう、ありがとうって耳にタコができそうなくらい言うもんだから、改めてこいつを大事にしようって、心の中で誓った。子供居なくても十分幸せだったって思わせるくらいには。
次の休日、俺は目を見張った。例の近所の子供が、俺がプレゼントした服と同じものを着ている。はっと振り返ると、そいつは眉をハの字にして立っていた。口を開いて「せっかく買ってもらったのに、ごめんなさい。」って。使わないのはもったいないからって。申し訳なさそうに。でも芯のあるしっかりした声で。気づいたら俺の目は涙で霞んで鼻はぐずぐずになっていた。
ごめん。ごめんな。俺の自己満足で無神経なものを押し付けて。泣きたいのはお前の方なのにな。実は未練たらたらだったのは俺の方かもしれない。そういえば俺、お前の泣いてる所見たことない。俺がお前のこと守ってやってるって勝手に思ってたけど、とんだ間違いだった。お前は強い。守られていたのは、いつまでたってもお子様な俺の方だった。情けない程大泣きしてる俺を、そいつはいつもしてるようにふんわり抱きしめて、一言こう言った。犬を飼おう、って。
そして今、俺達の間には可愛くて賢い老犬が一匹います。赤ん坊だったあの子は高校生になって、時々家に飯を食いにきます。「おっちゃん達みたいなお父さんになりたい!」って嬉しそうに言ってるのを聞いて、後でこっそり涙したのがばれて腹を抱えて笑われました。
何億の中から俺を選んでくれてありがとう。ごめんとありがとうを繰り返しながら、残りの人生を歩んでいきたいと思います。
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ここまで読んでくださってありがとうございました!
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