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道ゆく人は意外にもみんな冷たかった。どんなに泣いても、崩れても、誰も声をかけてはくれない。でもそれで良かった。この泣きはらした目は、誰にも見られたくはない。楓はふらりと立ち上がり自分のアパートへ帰ると、ようやくポケットから鍵を出した時に足りないものがあることに気がついた。
「あ、鞄……」
何も持たずに「用事」だと言って、飛び出していくなんて矛盾している。玄関に立ち尽くし薄暗い部屋を見ていると、自分の心と重なった。あんなに泣いても涙は枯れずにどこまでも出る。楓はドアに背を預け崩れ落ち、またどうにもならない思いに声を殺して泣いた。
幸いにも明日は土曜で、この泣きはらした顔も誰にも見られずに済む。二日で気持ちを切り替えて、輝に会っても笑って誤魔化せばいいだけだ。でも今は極力会いたくなくて、笑える余裕はひとつもない。それなのに……思いとは裏腹に、涙と共にぽつりと本音が溢れた。
「やっぱり会いたい……今すぐ輝に会いたい……………」
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