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「楓のことを好きだと分かってからも、告白されることはあったけど全部断っていたんだ。でも『付き合えなくてもいいから小さな思い出が欲しい』って言われて……。思い出って何だろうって思ったら『頭を撫でて欲しい』とか『一度だけ抱きしめて欲しい』とかで……。できればしたくなかったけど、それで彼女達の気が済むのなら、断って傷つけてしまうより良いのかなって思って引き受けた……。でも……しなければ良かった……後悔しても遅いけど……」
今ままで感じたことがなかった「人を想う」感情を知ってからの輝は、彼女達の気持ちも痛いほど分かるようになった。それを思うと、断りたくても断れなかったのだろう。話はしなかったが、もっと無茶なお願いもされていたかもしれない。そんなギリギリのラインで輝は悩み、葛藤していたのかと思うと、楓は幼稚な嫉妬をしていた自分に恥ずかしくなってしまった。
「引いただろう、こんな俺で……。でも、楓の気持ちが知りたいんだ……」
「引いてないよ。僕の方が引くようなこといっぱい言ってるし……」
「じゃあ、ちゃんと聞かせて……」
「ぼっ……僕は……さっき言ったじゃん……」
「言ってない。ちゃんと俺の目を見て」
先ほどからずっと顔を真っ赤に染めたままの楓の頬を、両手で優しく包んだ輝は真剣な眼差しを向けてきた。泣きながら支離滅裂なことしか言っていなかった楓は、恥ずかしくて輝の目を見れずぎゅっと閉じてしまった。
ーーああ……たった一言なのにちゃんと言うことができないなんて。
包まれている頬は熱いままで、胸の高鳴りもきっと輝に聞こえているのではと思うくらいどくどくと音を立てている。何度も息を吸って、吐いて、繰り返し、繰り返し……覚悟を決めてゆっくりと目を開けた。
「輝が好き……ずっと…………ずっと前から好きだった」
「いつから?」
「………廊下で……ぶつかった時から」
「俺も同じだ。あの時からずっと楓のことが好きだった……」
夢じゃない。はっきりと聞こえた言葉に、涙で目の前の愛しい人が霞んでしまう。それでも夢じゃないと輝は、楓の額にひとつ優しいキスを贈ってくれた。それはとても温かくて、流れた自分の涙もはっきりと現実であることを教えてくれた。
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