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雨【1】 フジヒラ (ちょっとだけR)
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秋入梅の今の季節。
ここ最近、連日で細雨が降っていて、とてもじめっとしている。
恋人のフジと付き合って2年になる。自分で言うのもなんだけど、俺たちはとても愛し合っていた。少なくとも俺はそう思ってたんだ。昨日あんなものを見るまでは。
昨日も今日と同じ細雨が降っていた。特に何もすることも無く、ただただ時間が過ぎるのをボーッとして待っていた。
(フジに会いたいなぁ…)
唐突にそう思った。最近フジは忙しいのかあまり連絡をくれない。実況をアップしているのは知ってる。いつも見てるから。
でも、フジからのLINEはここ2週間全く来ない。
前までは毎日、毎日くれていた。
ヒラ、何してる?とか、おやすみとか他愛もない会話でも充分に嬉しかった。
でも今はそんな他愛もない言葉さえフジは投げかけて来なくなった。
(何かフジに嫌われるような事、しちゃったのかなぁ…)
無意識のうちにしてしまっていてもうフジが自分の事を嫌いになっているんじゃないかと不安になった。
(今から家行っても良い?ってLINEしてみようかな…)
意を決してフジにLINEを送る。2週間ぶりにフジにLINEを送ると少しドキドキした。
10分経っても20分経っても返信はおろか、既読すらつかない。
(やっぱ忙しいのかな?うーん…でもフジに会いたいし…よし!ドッキリでしたー!みたいな感じで突然訪問しちゃおっと!)
フジが驚いている姿が目に浮かんでふっと笑いがこみ上げた。部屋着を着替えて、必要最低限の物を持ちフジの家へ向かおうと家を出た。フジがくれたお揃いの青色の傘をさして。
雨の振動が傘に伝わる。フジの家まで電車で20分。
そこそこ遠い。駅まで傘をさし、出発ギリギリの電車に飛び乗った。
走ったせいで心臓はドキドキと音をたてていた。走ったからという理由だけではないような気もしたけどあえてその気持ちを無視して、ゆらゆらと電車に揺られていた。
フジの家がある駅に着くと、雨はなんだかいっそう酷くなったように感じた。
(こんだけ雨降ってたら流石に外には出ないかもしれないなぁ…フジ、こういう雨に濡れるの嫌いだし)
連日の雨でそこら中に水溜まりが出来ていて子供の頃、水溜まりに飛び込んで長靴とズボンをビショビショにしたことがあったなぁ…それでお母さんの怒られたっけ。なんて思い出しながら歩いていると、いつの間にかフジが住むマンションに到着していた。
前に合鍵を貰っていたので、ロビーを通りフジの部屋がある階へとエレベーターに乗った。
フジの部屋の前まで来て戸惑いが出てしまった。
(本当に行っていいのかな?迷惑がられたらどうしよう…)
恋人に対してこんな不安を抱くのはあまり良くないかもしれないけど心配でなかなかインターホンを押す勇気は出なかった。
(あ、合鍵持ってるんだしどうせならこっそり入って驚かしちゃえばいいんじゃない!?そしたらフジ、きっとビックリするぞ~)
もう完全にドッキリを仕掛けるつもりで合鍵をそっと回した。
そこであっと気付いて青い傘を傘立てに入れた。
そして出来るだけ音をたてないように慎重にドアを開ける。
玄関で靴を脱ぎ、廊下も出来るだけ音をたてないように歩いた。
でも、よく考えたらフジが居る場所分からないんだって思ってとりあえず入口に近いお風呂場からリビング、実況部屋、寝室の順で見てみることにした。
最初はお風呂場。電気もついてないし、ここには居なかった。
次はリビング。机とソファーが置いてある小綺麗な部屋だけどそこにも居なかった。そこを突っ切って、実況部屋へ向かう。
ここに居るんじゃないかなーって思ったんだけど声がしなかったし、編集でもしてるのかなと思い見るけどフジは居なかった。
最後は寝室。ほぼ部屋を見て回ったけど居なかったって事は体調悪いとかで寝てるのかもしれない。それなら2週間連絡が無かったのも頷ける。
でもそうじゃ無かったんだ。体調が悪い訳じゃなかった。眠たかったとかそういうのでもない。
「あっ/////あんっ/////ねぇ…フジくん…もっと激しくしてぇ♡」
「欲しがりだなぁ…/////んっ/////」
聞こえるんだ。ギシギシとベットが軋む音が。
いつも俺と体を重ねる時に言うような喘ぎが。
聞こえたくなくても聞こえるんだ。「フジくん」って呼ぶ、高い声が。
(嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。これは何かの聞き間違いなんだ。直接見て見なくちゃ真相なんて分からないじゃん。そうだよ、自分の目で見なくちゃ。ちゃんと確かめなくちゃ)
あまりに突然で気が動転ひて、フジの寝室の部屋のドアをほんの少し隙間を開ける。
そしたら案の定フジは知らない女の人と体を重ね合ってた。
体液に塗れて、愛おしそうに女の人を凝めるフジは俺の愛した人だった。俺を抱く時、いつもしてる顔を知らない女に向けてた。
気付いたら音は無視して走っていた。玄関まで一直線に走り、ドアを勢いよく開け外に飛び出した。
マンションから数百メートル離れて足は止まった。
雨は来た時より強くなって、服を徐々に濡らしていく。全身ビショ濡れで呆然と立ち尽くし、下を向いていた。
どうしてあの時あの現場に入れなかったんだろう。
言ってやればよかった。フジは俺の彼氏ですって。出ていけって。
でも言えなかった。フジが俺に向けるのと同じ顔していたから。
好きって顔、してたから。愛してるって顔してたから。
気付けば大声をあげて泣いていた。
人目も気にせず、好きなおもちゃを買ってもらえなくて駄々をこねる子供みたいに。
涙は頬を伝って流れて行ったはずなのに、雨に紛れてもうとっくに分からなくなっていた。
そして俺がフジに対する気持ちも分からなくなっていた。
あの青い傘は傘立てに突っ込んだまま置いてきた。
(どうせなら、フジに対するこんな大きな愛も置いてくればよかった…バカだなぁ…)
涙が止まらない。
雨も止まない。
雨と俺の心模様が一致している様に思えた。
まだ季節は秋入梅だった。
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