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昼も近くなった頃にようやく金塚が出勤して来た。明らかに遅い出社に誰もが不満を覚えているが、やはり誰も注意する事も不満を打ち明ける事もない。
「はよーございまーす」
「おはよう金塚。例のクライアントの企画、冴島ので通りそうだから。」
「あぁ、そう。」
鳴瀬が伝えると実に興味のなさそうな返事を返した。
「だから冴島と共同で進めてくれよ。クライアントともそういう話だっただろ。」
「あー…」
「そもそも引っ張って来たのはおまえなんだから最後まで責任持てよ。」
「言われなくてもやるって。」
鬱陶しそうにして手を払う金塚に、鳴瀬も溜息を溢した。この話はもういいと打ち切られてしまったので鳴瀬はこれ以上のお小言を言うのもやめた。
冴島はその一部始終を盗み見して胸中で金塚に悪態を吐く。
協調性の欠片もない奴だ、と。
しかし、クライアントからの指示とあれば共同しないわけにもいかない。そこで指示を無視すれば金塚と同じ事になる。
本日何度目かの舌打ちをついて、冴島は金塚の元へと向かった。
「金塚さん、これ、企画書の原本なんすけど…」
「あ?あぁ、そこ置いとけ。」
「そうじゃなくて、ここからどうするか決めないと俺が先に進めないんで。」
「勝手にやれよ。おまえの企画だろ。」
自分だって出来るならそうしたい。が、クライアントからも上司からも共同しろという指示がある以上それが出来ない。
「クライアントからの指示なんで、俺1人で進めたらダメなんすよ。」
「そんなの言わなきゃバレねぇだろ。聞かれたらちゃんと2人でやりましたって言えばいいんだよ。」
「そんな!」
「うるせぇな。俺はおまえと違って他にも仕事抱えてんだ。クライアントが俺が制作に関わるならって条件じゃないと依頼をくれなかったから承諾しただけで、おまえの企画でいいって向こうが言ってんならもう俺の手から離れた様なもんなんだよ。」
嘘も方便って言うだろうが、と続ける金塚を冴島は冷めた目で睨みつける。
「あんたさっき鳴瀬さんに「言われなくてもやる」って言ったじゃねぇか。あれも嘘かよ。」
「口の減らねぇガキだなおまえは。原本なんか持って来たってすでにクライアントと鳴瀬がチェック入れてるだろうが。まずそれを直してから持ってこい。どう直すか位は自分で考えろ。」
「…そんなんで共同って言えるんすか」
「あぁ?まだ文句あんならそれもやんねーぞ。チェックはしてやるって言ってんだからさっさとやれ。」
「…わかりました」
「あ、あとおまえに合わせて残業とか絶対にしねぇからな。見て欲しいんなら定時の1時間前には持ってこい。」
なんて奴だ。部下に対する必要以上の圧力。昼からの出社のくせに定時には帰ろうとするクソみたいな先輩とどう上手くやれって言うんだ。攻略できる奴がいるならそいつを神と崇めてやりたい。
「定時の1時間前なら見てくれるんすね?」
「あぁ。」
「分かりました」
冴島はデスクに戻り乱暴に腰をかけると、原本を持っていた拳でデスクを殴りつける。
握り締められた拳の中で、原本に引かれた赤線が醜く歪んでいた。
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