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パソコンのあらゆる場所を検索してみてもデータが見つかる事はなかった。こんな事ならUSBだけじゃなくパソコンにもデータを落としておけば良かったと思ったが、今更後悔しても遅い。
金塚さんが残してないか聞いてみよう。
冴島は席を立って足早に金塚の元に向かう。
金塚は電話で誰かと話していたが、冴島を認めると口だけを動かして「なんだ?」と聞いてきた。
「…データ、飛ばしました。」
冴島は簡潔に言う。もちろん申し訳ないのと、どうしたらいいかという戸惑いもあるが、何よりもまず伝えなきゃならない事はそれだった。
金塚は目を見開いて驚愕し、すぐに眉間に深い溝を刻んだ。
「ではそういう段取りでお願いします。はい、はい、では失礼致します。」
顔は冴島を怯ませる程の形相なのに、声は至って爽やかで利発的でもあり、そのバランスの悪さに更に冴島は生唾を呑み込む。
「で?なんだって?」
明らかに聞こえていたのに金塚はわざと聞き返した。
「データを、飛ばしたみたいです。」
これに関しては冴島は金塚に何と言われても反論は出来ないし、言い訳も見つからない。なんで飛んでしまったのかは分からないが、USBになければない。それが事実だ。
金塚は無言のままスーツの胸ポケットを弄り煙草を取り出した。その中から一本を咥えるとライターで火を点ける。
「金塚さん、ここ禁煙…」
「知ってるよ。」
「ですよね。」
「で、どうすんの?」
「はい?」
「はい?じゃねぇよ。データを飛ばしました、すいません、じゃすまねぇだろ。おまえはすいませんも言ってねぇけどな。」
「すいません…」
「謝罪が聞きたいんじゃないんだよ。それでどうするつもりなんだって聞いてんだ。」
「金塚さんはデータを残しては…?」
「ねぇよ。おまえが進めるのに古いデータを俺が持ってたらややこしくなんだろ。変に重複しない為におまえに資料とデータをまとめて渡しただろ!」
朝一で渡された仕事の量に文句を言い、変わりにこの資料を突き出されてデスクに戻った後、冴島は金塚にそう言われて資料の他にデータを渡された。もちろんその時の事は冴島も覚えている。
「データがねぇなら作り直せ。」
「え、でも今から作ったんじゃ明日の朝一には間に合いませんよ!」
「間に合わせろ。あの広告がどれだけ重要か分からねぇとは言わせねぇぞ。クライアントが誰か、資料を読んでないわけないよな?」
それは読んで分かっている。それが如何に重要で、そして今置かれている状況がどれだけまずいのか。だから助けて欲しくて金塚の元に来たのだ。助言をくれればいくらでもその通りにする。だから今どうすべきかを教えて欲しかった。
「1からは無理です!せめて基盤だけでも作り直してくれませんか?」
「俺はおまえ程暇じゃねぇんだ。おまえが突き返した仕事の量見りゃ分かんだろ。」
「でもあれは!」
「おまえは嫌がらせだと思ってんだろうけど、本当に3分の1しか渡してねぇよ。まぁでも、おまえがそれを嫌がったおかげで内容的にはまだ楽な仕事ばっかり残ったけどな。」
冴島は唇を噛み締めた。
屈辱だが、受け止めなくてはならない。
それは事実でしかないからだ。
「お願いします…ベースさえ出来ればあとは残業してでも…明日までには必ず仕上げますから!」
「…あの約束は無効にするぞ?むしろ、おまえが俺の望みを叶えるくらいの事はしてもらわないとな。」
「…構いません。それでこの広告が上手く行くなら…」
屈辱でもなんでも、受け入れる。
そう冴島は覚悟を決めた。
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