アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
22
-
「昔話をするようだけどな」と鳴瀬は冴島に3年前に起きた事件を語り始めた。
3年前、金塚は今と同じような大きな企画を担当し、その時も1人ではなく当時の先輩と共同で担当していた。企画自体は至って順調に進んでいたが、その企画の成功には金塚の力が大いにあった。それが面白くなかった先輩は敢えてミスを連発。その罪は全て金塚に押し付けられた。当然ながらクライアントは激昂。金塚は担当から外される事となったが、その責任はそれだけでは済まされず体の関係を強要した。金塚は断り続けるも企画自体を打ち切ると脅され、半ば強姦と変わらない形で金塚は犯された。
鳴瀬が目頭を押さえた理由はそこにあった。
あの時の再来なのだと悟ったからだ。
「あいつの容姿が男受けするのは珍しい話じゃないんだ。それ以外にも口説かれている様な時はあったし、なんだかんだと強要するクライアントがいなかったわけじゃない。それでも金塚は絶対に頷きはしなかったよ。だからおまえが言う様に枕営業なんて絶対にやらないんだ。」
「でも…あれは…」
「もし、少しでもあいつがその行為を受け入れてる様に見えたのなら、それはおまえの為だったんじゃないのか。自分だけなら絶対にやらない。何が何でも逃げただろ。でもその場にはおまえがいて、おまえの事を盾にとったんじゃないのか。…会食を誘う時からおまえの遅刻を指摘してたんなら、ない話じゃないだろ。」
それでも冴島には信じられなかった。あの時の金塚が本当に嫌がっていたなんて。あの嬌声が何度も耳に蘇るのに。
「…1度抱かれた事があるんなら、その時に快楽を覚えたって事もあるんじゃないっすか。鳴瀬さんがそれを、知らないだけで…」
冴島は自分が金塚に対して酷く最低な発言をしている事は分かっている。だがそうでもしなければ今後金塚をどう見て、どう接していいのか分からない。最低最悪のクソ野郎であれば、どう接するかなんて気にする必要もない。だから冴島は金塚を心底嫌いになりたかった。嫌いになれたら金塚と今まで通り、いや、それ以上に粗雑に話せるようになる。
だがそれも、鳴瀬の言葉で無意味となる。
「…自殺未遂をしててもか」
鳴瀬の言うその事実はとてつもない重りとなって冴島の体にのし掛かってきた。体を地面に縫い付けられた様に動かない。血が全身から抜け出ていく様に寒気が体を巡り、全身がわずかに震えていた。
「自殺未遂…?」
「したんだよ。その事があった後にな。遅刻してるのに何の連絡もないし、電話も出ないからマンションに行ったら薬を大量に飲んでた。発見が早くて助かったけど、しばらくは口も聞けなかったよ。」
今の金塚の姿からは自殺しようだなんて想像もつかない。どちらかと言えば「したいなら勝手にしろ」とでも言いそうな人物ではないか。
「社内ではミスはその先輩がわざとやったってのはすぐに判明したよ。だから先輩はクビになったし、逆に金塚はこの会社に居られる事になったけど、それでも金塚が失ったものは多過ぎた。それからだ、金塚があんな風に人を寄せ付けない振る舞いをする様になったのは。」
「え…じゃあ前は…」
「どっちかというとおまえみたいな、熱血漢のある明瞭な男だったよ。いつも元気で笑ってて、皆が自然とあいつに寄って行ってた。」
「…想像も出来ないっす…」
「だろうな。でもそれだけの事があったって事なんだよ。人格を変えてしまう様な事がな。だから俺はあいつがいつも通りに昼に出社して仕事して定時に帰って行って、それが例えばおまえみたいなルールを無視する様な奴を許さないって熱血漢があいつに牙を剥いても、それでも変わらずここに来て「おはよう」って言えるだけで良いって思えたりするんだよ。この事は一部の人間しか知らないからおまえみたいに反感買う事もあるけど、周りがあいつをなんだかんだで見捨てないのは、本当のあいつは真面目で明るい良い奴だって知ってるからさ。甘やかしてばかりじゃダメだってのは俺たちにも分かってるけど、結局誰よりも仕事してるのを見れば俺たちには文句はないんだよ。それがおまえには不服なんだろうけどな。」
「不服とかそんなんじゃ…」
ないとは言えない。昨日までの冴島の、金塚に対する扱いはどう見ても粗忽であり、敬いも何もなかったのだから。
「おまえがその現場で何を聞いて金塚が誘ったなどと思うのか、想像出来なくもないよ。でも、おまえが聞いたって言うあいつの嬌声は、おまえが持つ先入観じゃないのか?金塚を毛嫌いするおまえなら、目の前で嫌がる姿を見てたとしても快楽に溺れてると思うかもな。それが例え、強姦された屈辱と痛みに泣く悲鳴だったとしても。」
鳴瀬の言葉に反論するだけの術を、冴島はもう何も持っていなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
22 / 143