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金塚がいつも通りの昼過ぎに出勤すると、フロアに着いた途端に勢いよく立ち上がった冴島を視界に捉えた。が、瞬時に面倒だと思い、その姿を見なかった事にして自分のデスクに着いた。
冴島はそれを意にも返さず、金塚の元へと駆け寄って来た。
「金塚さん、おはようございます」
「…あぁ。」
素っ気ない返事を返すのは目に見えているのか、金塚の冷たさに大して気にも止めず、むしろ金塚の手を握りしめて来た。咄嗟のことに驚いた金塚は手を引いたが、冴島はその手を離さなかった。
「な、なんだよ。気色悪いな。」
「言ったじゃないっすか、金塚さんに会いたいって。」
「なんなの?俺は会いたくねぇし。」
「それでもいいっす。」
「…良くねぇよ。おまえ昨日自分が何言ったのか忘れたのかよ。」
再び冴島に掴まれた腕を強く引いて、その拘束から逃れると冴島を一瞥して舌打ちをした。
冴島は昨日の自分の言葉を思い出して気まずい顔を見せていたが、それでも尚食い下がって来た。
「昨日のはそのっ…」
「はいはい、ストーップ。とりあえず君たち仕事中だからねー。冴島は自分のデスクに戻ろっか?」
冴島の暴走を阻む様にして、鳴瀬が金塚との間に入り冴島を強制的に連れ戻した。冴島は「仕事の話してたんすよ!」と嘘にもならない嘘を吐いたが、最初から見ていた鳴瀬にはその言い分が通るはずもなく「いいからちょっと来い」と言われ、結局デスクにつかずに連行された。その姿を金塚は訝しみながらも見送り、ようやく自分の仕事に着く事が出来た。
一方、鳴瀬に連行された冴島は、朝来たばかりのミーティングルームに再び連れて来られていた。
「鳴瀬さん、どうしたんですか?」
先に部屋に入った鳴瀬が振り向くと、その表情は温和な鳴瀬には珍しく険しかった。
「馬鹿。態度があからさま過ぎんだよ。普通に接すりゃあいいんだから、過剰に気を使ったりするな。」
「別に気を使ってはいないですけど。」
「嘘つけ。おまえの口から「会いたかった」なんて言葉、どうやったら出て来るんだよ。確かに昨日の件でおまえには連絡しろとは言ったけど、それは金塚の事を心配しての事と、おまえがそのせいで気まずくならない様にって意味だ。誤解を招く様な事をしろってわけじゃないんだぞ?」
「誤解を招くって何がですか?」
「会いたいとか、手を握ったりとかそういうのは金塚に気があると思われるだろうが。」
「はぁ…でも男が男の手を握ったくらいでそうなりますか?それに「会いたい」って言うのは事実ですもん。恋愛って意味じゃないっすよ。昨日の事は俺も気が動転してたから金塚さんを傷つけるような事を言っちゃいましたけど、後から考えたら金塚さんも望んでた事じゃなかったんだろうなって鳴瀬さんの話を聞いて思ったんです。元々食事はあっちから誘ってきた事だし、金塚さんも最初は結構断ってたんで…だから俺、そこは素直に謝りたかったんですよ。普段はいくらいいかげんでも、これとは関係ないなと思うんで…」
冴島は朝とは違い、本当に昨日の事を悔いているような苦悶の表情を見せた。
「まぁ、おまえが昨日の事を気にするのも分かるし、そう促したのは俺なんだけど…その、なんだ、俺らは男に手を握られたってある意味気持ち悪いけど、金塚みたいな恐怖は感じないだろ。でも金塚には朝話した事があってトラウマがあるから受け取り方も違うんだ。あいつは隠してるけど、男に後ろに立たれると一瞬緊張した顔とかすんだよ。無意識かも知れないけど、根付いちゃってる恐怖があんだろうなと思うよ。だからおまえが昨日の事を謝りたくてやったんだとしても、金塚のトラウマに触れるような事は避けてくれって事だ。」
「…そうですよね…」
触られただけで、後ろに立たれただけで怖いという感覚が冴島にはいまいちピンと来ないが、それは逆に当たり前の日常が脅かされてるという事だ。それなのに昨日のあの行為は…恐怖や嫌悪感はそれよりも遥かに強く感じているという事だから…
冴島は昨日の自分の身勝手な発言が恥ずかしいと思った。金塚がそうせざるを得なかったのは、自分のせいなのに。
それなのに金塚は冴島を責めたりしない。
いつもは口も悪くて、勤務態度も最悪なのに、こんな時だけ冴島のミスを責めないのだ。
「俺…」
「別に気にしなくていい」
その声は不意に後ろからかけられた。咄嗟に振り返ると金塚が腕を組んで立っていて、呆れたような、困っているような、そんな顔をしていた。
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