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「それで、なんかあった?」
鳴瀬が聞くと冴島はハッとして持っていた書類を見せてきた。
「ここなんすけど、クライアントの指示だと白地に赤の文字でって話なんすよ。でもこの商品のボトルデザインもそれで統一したいって事だったんですけど、ポスターに商品とこのロゴだと被りすぎてて目立たないんすよね。」
「たしかに。クライアントってどこ?」
「…光正堂っす」
「あぁ…」
光正堂は中森の会社だ。昨日の一件があって冴島はあまりクライアントに問い合わせたくないのかも知れない。だからと言って独断で決めて良い案件でもないのだが。
「こういう時どうしますか?」
「こっちで勝手に決めて良いっていう話じゃないからな。もしそれでもクライアントがそのままの方が良いっていうなら下手にいじれないしな。…金塚に聞いてみたらどうだ?もしかしたらその辺の事は一任されてるかも知れないだろ?」
というか、そもそもそれは金塚と共同しているのだから金塚に聞くべきなのだ。それでも先に鳴瀬に聞いてしまうのは教育係だった事もあるが、やはりどうにも相性が悪いからだろう。
「金塚さんか…」
「聞きづらいってのは分かるけど、仕事の話は割り切ってやらないと駄目だぞ。」
「そうなんすけどね…」
「あいつはああいう性格なんだって割り切るしかない。おまえ、他の人にはそこそこ合わせられんのに、金塚には全然なんだな。」
「はぁ、そう言われればそうかも知れないですね…でも、ちょっと性格に難ありって言うなら俺もあまり気にしないっすけど、他にいないじゃないですか、昼から出勤するような人。しかもそれで定時には帰るし、態度は横柄だし。…昨日の事とか、鳴瀬さんが言ってた前の事とか、そういうののせいでっていうのもあるかも知れないですけど、やっぱりなんか、他の人より目立つんすよね。」
「目立つ…ね。良くも悪くも雰囲気はある奴だしな。でも、これからだって色んなことを共有しなきゃならないんだから、今から逃げてちゃやってけないぞ。少し頑張ってみろ。それで無理なら俺も力になるからさ。」
「…ありがとうございます、これ、金塚さんに聞いてみます。」
すっきりしたとは到底思えない足取りでフロアに戻る冴島を鳴瀬は苦笑のまま見送る。最近、そんな事が増えた。
もう少しだけ休憩してから自分も戻ろうと、窓から外を眺めてみる。そこはもう金塚が見ていた夕陽は沈み切っていて、目の前には闇が広がっていた。
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