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その視線の意図はなんなのか、今までだったら何も思わなかっただろうが、三年前の話、昨日の夜の事、ついさっき起きたトラブル、それらを総合すると見たくなくても嫌なものが見えてきた。
「広末公園までで。」
そう応えたのは金塚ではなく冴島だった。
金塚は虚を突かれた顔をして冴島を見たが、意見は同じだったのか、それを訂正する事はなかった。
公園に着いて先に降りた冴島に金塚が「じゃあまた明日な」と声を掛ける。冴島はそんな金塚を見下ろし、そして腹を決めた。
「金塚さんもここで降りてください」
そう言うと、金塚の返事も聞かずにタクシーから引きづり出した。
「は、おい。ちょっ…何」
「すいません、いくらですか?」
金塚の制止も聞かずに料金を払うと、少し戸惑った顔をした運転手に礼を述べて後部の扉を閉めた。
ゆっくりと走り出したタクシーを見送り、金塚を振り返ると、絵に描いたような不機嫌な顔をしていた。
くっきりと浮かぶ眉間の皺に鋭い眼光。
元々金塚の冴島を見る目はこんなものだったので、その不機嫌な顔にも抗体がある。おかげで冴島はそれに怯むこともなく「行きましょう」と一言だけ告げて金塚の腕を引いた。
「待てって。行くってどこにだよ!」
「俺ん家ですけど」
「はぁ!?なんで!」
「だから言ってるじゃないっすか。肩痛いんでしょ?」
「痛くねぇって言ってんだろ!」
金塚が手を引いて抵抗すると、簡単に冴島の手が離れた。だからと言って納得しているわけでもなく、不満顔で金塚に向き直り溜息をついた。
「痛くないならないで、ちゃんと見せて下さいよ。」
「うるさい奴だな。」
「うるさくて結構ですよ。」
そう言った冴島は一瞬不敵な笑みを浮かべた。
「え、な…っいったぁ!!」
冴島に肩をがっちりと掴まれ、その激痛に悲鳴をあげた。
「やっぱり痛いんじゃないですか」
「ちっげぇよ!おまえが馬鹿力だからだろ!」
馬鹿力と言うが、実際にはそんなに痛がる程の力を加えていない。金塚のリアクションがオーバーなのか、もしくは本当に痛めているかのどちらかだが、痛くないと言い張る人間がオーバーリアクションするとは思えないのでたぶん後者だ。
「お願いですから見せて下さい。それが終われば帰ってもいいっすから。ちゃんと送りますし。金塚さんだったらそれ、そのまま放っておくでしょ?」
「……」
図星なので金塚には何も言えない。それを分かって冴島は笑いながら金塚の手を引いた。
不貞腐れた子供を連れて帰る親の気分だ。
暴れないだけマシかも知れないが、意地を張っていつまでも頷かないのはまるで子供だ。
そんなところは不思議と可愛いと思える。普段の仕事のやり方や、冴島への傍若無人な態度は甘く見積もっても可愛いとは言えないが、意固地になっている姿は別の角度から見れば許せなくもない。自分が大人になればいい。この人と同じ場所に立っていては、いつまで経っても腹に来る。馬鹿にするわけでも、下等に見下すわけでもなく、ただ、自分がもっと寛大になれば、思いの外この人を許せる。
そんな気がしたのだ。
「あー、やっぱりちょっと分かってきました」
「…はぁ、何が?」
「金塚さんは甘え下手なんだって事っすかね」
「うっせぇよ、バーカ」
「はいはい」
その後も冴島に手を引かれながら、後ろでずっと「離せ」だ「馬鹿」だ「ハゲ」だと子供みたいな暴言を吐き続けたが、冴島にはそれが面白くて仕方がなかった。
そんな言葉を並べていても、引かれた手を離そうとはしなかったからだ。
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