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材料を手早く切って鍋に並べていく。待たせてしまうと金塚の気が変わってしまいそうで、冴島はいつもより急ピッチで調理をしていた。
その間金塚はリビングのローテーブルに置いてあった、雑貨やデジタル関係の雑誌を眺めていた。相変わらずページをめくるスピードは早い。
「なぁ」
金塚が雑誌から視線をそらす事なく話しかけてきた。
「はい?」
「おまえ、嫌じゃないのか?」
「え、何がですか?」
本当に検討がつかなくて呆けてしまう。どこに不満を覚えたらいいのか分からなかった。
それ以外に答えようがなくて黙っていると、金塚が顔を上げて冴島を見た。その顔は少し困ったようで、気まずそうな顔だった。
「だっておまえ、昨日の今日だぞ?あんなん見せられて、そいつが自分の家にいて、同じ飯を食おうってさ、嫌じゃないのか?」
正直なところを言えば、冴島自身も自分の心の変化にはついていけてない。昨日見た事は確かに嫌悪すべき事だし、昨日のあの段階では最悪だと思った。けれど、あれが起きた原因が自分にもあるという事を考えたら、金塚だけを責めるのも、嫌悪するのも間違えている。それに、過去に起きた事が原因で金塚の勤務態度が悪くなったのだと知ると、やはりそれも金塚だけを責めるのは何か違う。仕事が出来るから多少の事は許されると思っているのなら最悪だが、そうではないのだし、鳴瀬は金塚の過去の事は一部の人しか知らないと言ったが、これまで誰も不満を訴えて来なかったのはだから、皆何かしら分かっていたのかも知れない。皆はそれを分かっていて享受してきた。何を言わないでも、変わらず接する事で金塚を支えてきたのだとすれば、随分と愛されている人だと思う。
嫌いな人を急に好きにはなれないが、けれど冴島の中で金塚の存在は間違いなく形を変えつつある。
認めたくはないけど、惹かれているのは間違いないのだ。
「嫌じゃないっす。昨日の事もこれまでの事も、金塚さんに対する考え方は俺が間違えてたって分かってますから。」
「…間違いとかじゃないだろ。知らなかっただけだ。」
「そうですけど…だからって相手を傷付けても良いって事じゃないし、知らないくせに物事を自分の秤で測って相手の事を決めつけるのは良くないです。鳴瀬さんに昔の事を聞いて反省しました。本当、なんで昨日あんな事言っちゃったのか…」
気持ち悪い
多分誰よりもそう思っていたのは金塚自身のはずだ。
好きでもない男に犯されて嬉しいはずもない。金塚の実力を持ってすれば、あんな事をしなくたって仕事は来るし、何かあってもうまく切り抜けられるだろう。金塚があの人達に体を開いたのは今回は冴島がいたからだ。
望まない事。それをしている自分の事も、相手の欲望にも、気持ち悪いと思っていたのは金塚の方だろう。
「俺はおまえに真っ向から敵視されてたの、意外と嫌じゃなかったよ。俺がおまえと同じ立場ならやっぱり同じ事してたと思うよ。いくら仕事が出来たとしても、こんな勤務態度の奴がいたら秩序は乱れるし、取引相手にも迷惑かけるかも知れないからな。周りがいくら許してても、甘えて良いはずがないんだから。」
それを分かってて甘えてんだけどな。と金塚は自嘲気味に笑った。
「すいません…」
「はっ、なんでおまえが謝んだ。嫌じゃないって言ったろ。俺だって、心のどこかで良くないとは思ってんだ。いつかは立ち直らなきゃならないって…おまえは、それを忘れさせないでいてくれた。」
それは、「追い詰めていた」とは、違うんだろうか。
冴島は金塚が言うような正義を持っていたかというと、そうとは言い切れない。
だから、その金塚の言葉を聞いて冴島は思った。
もしかしたら、冴島の言葉は金塚を追い詰めていただけかも知れない、と。
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